読書
井上達夫氏は、リベラリズムの歴史的源泉は「人間が理性によって因習や偏見から自己を解放する」啓蒙と、「宗教観や価値観が違っても共存の可能性を探る」寛容であると指摘している(74)。そして、「その哲学的基礎は単なる自由でなく、「他者に対する公正…
伊藤恭彦氏によると、「現代リベラリズムの規範の根幹は、個人の自由の拡大を反権力あるいは反介入政策と結びつけるのではなく、個人の福祉の向上に対して政府や社会が責任をもつべきであると考えと結びつける点にある」(5)とのことである。そして、現代リ…
本書において、宮台真司氏はリベラリズムの「端的な事実性」を説いている。端的な事実性とは、「「人間とはこの範囲だ」とか「我われとはこの範囲だ」といった区別の線引きについての事実性」のことであり、「こうした事実性なくして機能しない」(64)とし…
宮台真司氏は、ジョン・スチュアート・ミル『自由論』を挙げて、「リベラリズムとは、個人の尊厳を与える、愚行を含めて自己責任でなされる自由な試行錯誤を保証するような社会制度に、価値的にコミットする思想的態度を示すもの」(17)と説明している。ポ…
東浩紀氏は、自由の概念を「所有権にもとづいたリバタリアニズム的なものと、社会の異種混淆性や他者への開放性を重視するリベラリズム的なもの」(168)に分ける。前者が他者の迷惑にならない限りは何をやってもよいという自由で、後者が他者のことも考えて…
北田暁大氏は、近代リベラリズムを特徴づけるものとして、「私的所有、自己決定、自律といった個人主義的な契機」と、「市場主義(自己調整機能への着目)」を取り上げている(79)。それは以下のように分類される*1。 私的所有:ジョン・ロック『市民政府論…
浅羽通明氏は、「個人の独立の伸長を何より尊重し、そのための手続き、手段として法の尊重と権力の必要を認める」(72)といったリベラルの基本を、福澤諭吉が『学問のすゝめ』において宣言していたことを指摘している。そして、福澤は経済的自立と精神的自…
稲葉振一郎氏は、「新自由主義=新保守主義は、内政、社会経済政策における『小さな政府』論、市場原理主義と、外交におけるタカ派リアリズムとの混合物である」という「ケインズ主義の黄昏とネオリベラルの勝利のお話」(69)を批判的に捉えることから、リ…
佐伯啓思氏は、進歩主義の理念を纏ったリベラリズムが支配的イデオロギーとなっていることを指摘している。進歩主義には次の二つの柱がある、 (1)西欧近代社会が生み出した自由や平等、人権、個人主義(個人の尊厳)、幸福への欲求などは普遍的価値をもつ…
大澤真幸氏は、リベラリズムを「自由を、(他者の同様な)自由とは異なる根拠によって抑圧すべきではないとする思想」(46)と定義し、リベラリズムの理念として「個人がこの経験的世界で帯びる偶発的な性質を無化し、還元すること」(48)を提示している。 …
櫻田氏は「保守派」と「リベラル派」との対立の焦点を、「近代国家の枠組み」に依拠して説明している。 保守派は近代国家としての枠組みが敗戦と占領によって著しく損傷されたと考え、この「損傷」の修復を問題意識の中心においてきた。その修復の具体的な内…
本書は國分功一郎、青山拓央、千葉雅也、伊藤亜紗、古田徹也、苫野一徳の思想を取り上げ、「J哲学」という日本哲学を論じている。「J哲学」について、著者は次のように述べる。 「J哲学」と呼ばれる日本哲学の最前線は≪日本的なものを哲学に取り入れるぞ!≫…
「二人とも、極度に抽象的であることによってこそ、個別的な事例の現場に届くことがありうると信じている」(3)-國分功一郎氏が指摘している千葉雅也氏とのこの共通項のためか、二人の対談は共鳴しあっている。そして、千葉氏が語るように、この二人の「お…
「脱成長コミュニズムという妖怪が日本を闊歩している」(144)-このように語る著者は、斎藤幸平『人新世の「資本論」』が資本主義後の明確なビジョンを示したことを評価しつつも、「問題は脱成長コミュニズムが本当に資本主義に代わりうる選択肢なのか」(…
本書は「私物化」をキーワードに、民主主義の理念を明らかにし、代表制民主主義が機能不全に陥っていることを論じている。著者によると、現代の私物化は「社会の私物化」と「政治の私物化」という二つの領域で進行している。より具体的には「新自由主義によ…
元自治体職員で地域情報化アドバイザーとして自治体の情報化に携わってきた髙橋邦夫さんが、「自治体DX推進のヒント」(ⅱ)を語っている。「はじめに」で指摘しているように、「デジタル化に則した働き方に変えるためには、規則や要綱の改正とともに、職員の…
シュンペーター、ラクラウ、そしてシュトラウス-この三者を論じることで見えてくるものは何か。それは、本書の帯にも書かれている「非時間性=「革命」の水脈」である。 著者は、シュンペーターの「イノベーション」「アントレプレナー」、ラクラウの「ラデ…
「みんなたこつぼのなかにいる」(30)-著者のこの言葉にうなずかざるを得ないという人も少なくないだろう。この「「分担」による「分断」」(131)を解消し、「一つの目的のために一緒に物事をする」という「連携」(131)が、今の公務員には必要とされて…
この時期になると、当初予算の要求に加え、国の経済対策としての補正予算にあわせた、自治体での補正予算編成事務が生じてくる。ここでの補正予算とは、いわゆる「15か月予算」のことであり、「予算の前倒し」としても表現される。 財政部局の立場としては、…
大阪府知事・大阪市長として様々な決断を下し、組織を動かしてきた橋下徹氏が「意思決定の技法」(5)を論じている。本書で語られている内容は、実務においてリーダーシップを発揮する上で、また、危機管理へ対応する上でも役立つ。 橋下氏は、正義の考え方…
「成功とは強い意志力と抵抗に打ち勝つ力の産物ではなく、最初から抵抗を発生させない仕事環境の成果である」(50)-本書はそのために、副題にもある「メモ」を始めることを推奨し、その方法論を論じている。そして、この仕事術のモデルとなるのが、ニクラ…
「自治体戦略2040構想研究会」の報告書で示された「半分の職員数でも担うべき機能が発揮される自治体」、本書はこの背景にある人口減少社会における自治体の人事戦略について、具体的な実践事例や取組みを交えて論じている。 職員・労働力不足への対応として…
「『社会学的システム理論の軌跡』という題名が示唆するのは、本書において、社会学的に考えるための道具とされたシステム理論がどういったパラダイムに属するかということが論じられる、ということである」(7)と著者は述べ、システム理論の概念を解きほぐ…
本書はタイトルからも推察できるように、地方公務員として必要なデータ活用力について論じている。しかし、本書の特徴は、データを活用するためのPCの操作方法や数値の扱い方のみ紹介するのではなく、「データ」をテーマとして組織のあり方や仕事との向き合…
本書は、日本型福祉国家における1990年代の家族政策の転換を、言説政治論の枠組みから分析している。日本型福祉国家とは「家族主義の理念と高齢者偏重型の政策体系をもつこと」(1)であり、それと相容れない家族政策は周縁化されてきた。その代表例が、本書…
「黄昏を待ちきれなかったミネルヴァの梟」*1として現実政治に飛び込んだ著者が、「改革の政治」を軸に日本政治を振り返り、現状を打破するためのオルタナティヴを提示している。本書のキーワードである「改革の政治」とは、「強いリーダーシップによって行…
「哲学界のロックスター」とも呼ばれているマルクス・ガブリエルが、「人とウイルスのつながり」「国と国とのつながり」「個人間のつながり」という3つの「つながり」を軸に現代を捉え、これからの世界のビジョンを示している。コラムでは、「哲学者と現代…
「哲学において、女の快楽は一度も問われていない」(16)と語るカトリーヌ・マラブーの新著は、副題にもある「クリトリス」を探求し、「女性的なもの」を論じるものだ。「私は何かを証明するつもりはなく、ただ、複数の声が聞こえるようにしたい」(10)と…
本書は、新型コロナウイルスの感染拡大により、人間・社会のあり方が大きく変化していく状況下において、欧米で発表された論考とそれぞれの論考に対する訳者課題を収録したものである。訳者解題では、執筆者の思想や論考に対する解説が論じられており、本書…
奈良県生駒市長で多数の書籍も出版している、小紫雅史氏の新著は、『市民と行政がタッグを組む!生駒市発!「自治体3.0」のまちづくり』から発展しつつ、キャリアデザインの観点から、公務員の「在り方」「生き方」を説いている。個人的に関心を持った箇所か…