yamachanのメモ

日々の雑感や文献のメモ等

マルクス・ガブリエル『つながり過ぎた世界の先に』

「哲学界のロックスター」とも呼ばれているマルクス・ガブリエルが、「人とウイルスのつながり」「国と国とのつながり」「個人間のつながり」という3つの「つながり」を軸に現代を捉え、これからの世界のビジョンを示している。コラムでは、「哲学者と現代…

カトリーヌ・マラブー『抹消された快楽-クリトリスと思考』

「哲学において、女の快楽は一度も問われていない」(16)と語るカトリーヌ・マラブーの新著は、副題にもある「クリトリス」を探求し、「女性的なもの」を論じるものだ。「私は何かを証明するつもりはなく、ただ、複数の声が聞こえるようにしたい」(10)と…

西山雄二〔編著〕『いま言葉で息をするために-ウイルス時代の人文知』

本書は、新型コロナウイルスの感染拡大により、人間・社会のあり方が大きく変化していく状況下において、欧米で発表された論考とそれぞれの論考に対する訳者課題を収録したものである。訳者解題では、執筆者の思想や論考に対する解説が論じられており、本書…

小紫雅史『地方公務員の新しいキャリアデザイン』

奈良県生駒市長で多数の書籍も出版している、小紫雅史氏の新著は、『市民と行政がタッグを組む!生駒市発!「自治体3.0」のまちづくり』から発展しつつ、キャリアデザインの観点から、公務員の「在り方」「生き方」を説いている。個人的に関心を持った箇所か…

ジョルジョ・アガンベン『私たちはどこにいるのか?-政治としてのエピデミック』

ジョルジョ・アガンベン『私たちはどこにいるのか』は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて書かれた論考が収録されている。アガンベンが前書きでも触れているように、本書の要点は「パンデミックと言われているものの倫理的・政治的帰結について省察しよ…

鎌田華乃子『コミュニティ・オーガナイジング-ほしい未来をみんなで創る5つのステップ』

「「仕方がない」と諦めてしまうのではなく、「仕方がある」ことを知り、小さな行動を起こそうと思える」(1)、本書はこの「大きな」一歩を踏み出すためのきっかけを与えてくれる。その方法が、タイトルにもなっている「コミュニティ・オーガナイジング」で…

ジャン=リュック・ナンシー『あまりに人間的なウイルス-COVID-19の哲学』

「哲学は、その「形式」を、つまり「文体」を、つまり結局はその指し向けを渇望している。いかにして思考は自らを-思考に-差し向けるのか?」*1。本書の著者ジャン=リュック・ナンシーは、独自の文体によって、私たちが直面している新型コロナウイルス感…

エンツォ・トラヴェルソ『ポピュリズムとファシズム-21世紀の全体主義のゆくえ』

著者は、ヨーロッパとアメリカで「現在台頭しているポピュリズム、二一世紀の極右勢力」を、「ポスト・ファシズム」(7)と位置づける。なぜ、「ポスト」なのか。それは、生物学的人種主義、軍国主義・帝国主義といった特徴を有するファシズムの概念は「新し…

上野千鶴子・鈴木涼美『限界から始まる』

かつて細見和之さんは「書簡文化の終焉」を語ったことがあるが*1、本書が企画され、公開されることを前提とした、そして編集者を介した「往復書簡」であったとしても、「書簡」という形式だからこそ語ることができた、語ることになったことがあるだろう本書…

谷川嘉浩『信仰と想像力の哲学-ジョン・デューイとアメリカ哲学の系譜』

研究者ではない読者にとって、ジョン・デューイから連想するのは「哲学者、心理学者、社会科学者、教育学者、教育者、アクティヴィスト」(2)という側面であろう。本書は、これら多様な側面を描きつつ、デューイの宗教論に光を与えるものである。デューイと…

ジュディス・バトラー『問題=物質となる身体-「セックス」の言説的境界について』

「一九九〇年代以降のフェミニズム「理論」を新しい地平へと押し広げた批評家」*1で、「セックス、セクシュアリティ、ジェンダー、言語に対する考え方を変えた」*2思想家であるジュディス・バトラーの代表作の一つ、『問題=物質となる身体』*3の翻訳書がつ…

『ジャック・デリダ講義録 ハイデガー 存在の問いと歴史』24ページ2段落から28ページ2段落目まで

ヘーゲルにとって歴史と哲学の終わりは、それ以降は歴史の運動が止められ、停止させられてしまうような事実的な限界を意味していないことは自明です。そうではなく、歴史性の地平と無限の開けが、ついにそのものとして現れた、あるいはついにそのものとして…

工藤勝己『一発OK!誰もが納得!公務員の伝わる文章教室』

「国・都・区という3つのステージで実務に携わり、10年以上管理職として文章を書いてきた」(3)現役公務員による、文章の書き方の実践本。例文を紹介しながら、添削指導する形式で解説しているため、大変わかりやすい。文章の書き方を学ぶ研修がない自治体…

『ジャック・デリダ講義録 ハイデガー 存在の問いと歴史』(22ページ2段落から24ページ1段落目まで)

ここからは、ヘーゲル『哲学史講義』への言及が続く。 『哲学史講義』によれば、「哲学は、その起源を哲学史から取り出すのであり、その逆もまた然りである。哲学と哲学史は、互いが互いの鏡像である。哲学史を研究することが、哲学そのものを研究することで…

『ジャック・デリダ講義録 ハイデガー 存在の問いと歴史』(22ページ1段落目まで)

『存在と時間』の第六節は、存在論の歴史の<解体>(Destruktion)を最重要の課題として定めています。ここで解体とは…存在論の解体です。すなわち、その歴史全体を通じて思考され、実践されてきた、そうした存在論の解体なのです。(21) 「解体」について…

川瀬和也『全体論と一元論-ヘーゲル哲学体系の核心』

「全体論と一元論」というテーマはもちろん、「ヘーゲル哲学体系の核心」という副題にも関心を持つ読者は少なくないだろう。決して分厚いわけではないこの研究書で、どのようにして「ヘーゲル哲学体系の核心」へ迫るのか。著者の川瀬和也さんは、ヘーゲル『…

小松詩織『小松詩織が教える 司法試験・予備試験 合格のベストプラクティス』

様々な活動をしながら大学在学中に司法試験予備試験に合格、翌年司法試験に一発合格をしたという実績を持つ、小松詩織さんによる勉強法が描かれた一冊。短答対策、論文対策、論文答案作成、予備試験口述対策、それぞれの「ベストプラクティス」が説明されて…

小泉義之・立木康介編『フーコー研究』

「集大成にして最前線」と帯文にあるように、フーコー研究者に留まらない総勢30名の執筆者が、フーコーの思想を多角的・総合的に論じた圧巻の一冊である。 「Ⅰ 安全/科学/セクシュアリティ」、「Ⅱ 啓蒙/批判/主体」、「Ⅲ 言語/文学/芸術」、「Ⅳ 狂気/…

金井利之『コロナ対策禍の国と自治体-災害行政の迷走と閉塞』

新型コロナウイルス感染症対策において地方自治体に注目が集まっている中、コロナ禍での自治体の動向や今後のあり方を問う、重要な一冊が出版された。 本書の視点は、タイトルが示しているように、「コロナ対策禍」である。「コロナ対策禍」とは、政策課題と…

島田正樹『自分の楽しさは自分でつくる!公務員の働き方デザイン』

本書は、公務員が「自分らしく主体的に働く」(2)ために役立つ行動や考え方を、「仕事」「人間関係」「心のあり方」「プライベート時間」「キャリア」という5つの「デザイン」の観点から論じている。「全体の奉仕者である公務員が自分らしく主体的に働くに…

白川晋太郎『ブランダム 推論主義の哲学-プラグマティズムの新展開』

“ Making It Explicit ” や “ A Sprit of Trust ” など、読みたくてもなかなか手を出せないでいたロバート・ブランダムに関する待望の入門書が出版された。「ブランダムの哲学とは、「分析哲学」「プラグマティズム」「ドイツ観念論」を統合した言語哲学」(…

松元雅和『公共の利益とは何か-公と私をつなぐ政治学』

タイトルにもあるように、本書のキーワードは「公共の利益」であり、政治学の基礎的概念(「政治」「公共の利益」「自由主義」「民主主義」「権力分立」)と、具体的な政治制度や政治過程(「議会」「執政部」「官僚」「選挙」「政党」「団体」)を取り上げ…

堤直規『教える自分もグンと伸びる!公務員の新人・若手育成の心得』

『公務員1年目の教科書』や『公務員ホンネの仕事術』等、公務員の働き方に関する著作を多数出版している堤直規さんによる新著は、公務員の育成方法や育成することの意義を解説している。 本書は、「初めて新人を指導することとなった若手向け」「指導・育成…

宮本太郎『貧困・介護・育児の政治-ベーシックアセットの福祉国家へ』

民主党政権の「有識者検討会」座長をつとめたり、「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」部会長をつとめる等、政治過程・政策形成の現場でも活動されてきた宮本太郎氏が、この約30年の福祉政治を分析し、新たなる構想を描いた良書。 タイトルにも…

小田順子『令和時代の公用文書き方のルール-70年ぶりの大改定に対応』

公用文のルールである「公用文作成の要領(昭和27年内閣官房長官依命通知別紙)」の見直しについて検討が行われ、「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告)」が公表された。本書はこの報告書に沿って公用文の書き方を解説している。 第1章 公用文の分類…

野口雅弘/山本圭/髙山裕二編著『よくわかる政治思想』

「信頼できる書き手による「道案内」となる本書」(ⅰ)と自負するように、96項目にわたり、各テーマに詳しい62名の研究者が執筆している優れた政治思想のテキストである。本書の構成は、「政治思想とは何か」「政治思想の方法」という理論・方法論から始まり…

百木漠『嘘と政治-ポスト真実とアーレントの思想』

百木漠『嘘と政治-ポスト真実とアーレントの思想』は、タイトルが示すように、森友学園問題や加計学園問題、自衛隊の日報破棄・隠蔽問題等といった、近年の「嘘と政治」を巡る状況について、ハンナ・アーレントの思想を手がかりに考察したものである。『ア…

吉川貴代『はじめてでも乗り切れる!公務員の議会答弁ガイド』

管理職デビュー、議会出席デビュー、答弁デビューの経験を語りつつ、これからデビューを迎える職員に向けて書かれた議会答弁の指南書である。各自治体によって制度や慣例で異なるところはあるかもしれないが、本書で説明されている議会の知識や議会答弁のノ…

ショーペンハウアーとデリダの哲学(『倫理学の二つの根本問題』『絵画における真理』)

〇『ショーペンハウアー全集9』 将来のいつか、わたしの著作が人びとに読まれるという時代が訪れるなら、わたしの哲学とはいわば百の市門をもつテーベの都であることが明らかになるであろう。いずれの方角からも入場が可能であり、どの門を通ってもまっすぐ…

高橋陽一郎『藝術としての哲学-ショーペンハウアー哲学における矛盾の意味』

ショーペンハウアー哲学の研究書として、そして「藝術としての哲学」に関する研究書として優れた一冊だ。著者の高橋陽一郎氏は各方面で、ショーペンハウアーの意志論や藝術論、そして遺稿の哲学等を論じてきたが、これらの研究の成果がこの一冊で一つの作品…