2018年は、政治学における精神分析の重要性を再認識した一年であった。特に注目すべきは次の三冊。
①有賀誠『臨界点の政治学』
補論「精神分析と政治学」で、フロイト、ラカン、及びジジェクを取り上げて、精神分析と政治思想・政治哲学との関係について論じている。政治学の教科書において、精神分析が正面から取り上げられていることは珍しいように思われ、本書が2018年に出版されたことは注目すべきこと。
〈つながり〉の現代思想―社会的紐帯をめぐる哲学・政治・精神分析
- 作者: 松本卓也,山本圭,淵田仁,乙部延剛,大久保歩,柿並良佑,比嘉徹徳,信友建志
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2018/04/05
- メディア: 単行本
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本書の副題は「社会的紐帯をめぐる哲学・政治・精神分析」であり、政治と精神分析との<つながり>が論じられている論文が収録されている。理論的な内容でありつつも、それぞれの論者が抱いている現代社会に対する問題意識が垣間見えるため読みやすく、これからの政治・社会を考えるための参考になる。
③『思想二〇一八年 第九号 政治と精神分析の未来』
政治と精神分析について、『思想』で特集が組まれたことは注目すべきこと。ヤニス・スタヴラカキスの次の言葉は、政治と精神分析について考えることが、学者・研究者だけではなく、我々一般市民にとっても重要であることを示している。
いうまでもなく、無意識を単に進歩的でさらには革命的なものであると考えたり、あるいはもっぱら反革命的、反動的なものと理解することも難しい。無意識の過程は社会変革の可能性と不可能性のどちらの諸条件をも提供するのであり、それは変革の欲動のみならず、権力関係の長期にわたる結晶化にも織り込まれているのだ。このことは決定的に重要だろう。
いずれにせよ、無意識の機能から政治的行為のための実践的な意義を引き出すという課題を、分析家や精神分析的な政治理論家にもとめて終わりにすることのないよう注意すべきである。つまり彼らを、社会変革をおこしたり、請け負ったりしうる特権的な前衛集団にするべきではない。この幻想を超えたところで、現実の政治は始まるのだ。いうまでもなく、ここでは分析家、理論家、社会運動および進歩的な市民らがみな、均等な持ち前(share)で貢献する必要がある。(4)
また、『臨界点の政治学』では、精神分析が「1つの啓蒙のプロジェクト」(225)であることが指摘されている 。この「啓蒙」という側面についても、ルーマンの「社会学的啓蒙」等を参考にしつつ、今後考えていきたい。