yamachanのメモ

日々の雑感や文献のメモ等

今年の〇〇冊(カール・マルクス)

2018年はカール・マルクス生誕200年の年であり、それにあわせて多くのマルクス本が出版された。僕が手にしたものでお気に入りのマルクス本は次の4冊。

①百木漠『アーレントマルクス

アーレントのマルクス: 労働と全体主義

アーレントのマルクス: 労働と全体主義

 

アーレントマルクス、ブームになっているこの二人を取り上げている稀有な一冊。本書はマルクス本でもあり、アーレント本でもあり、さらに、現代社会の問題にも直結するものでもある。個人的には、本書で取り上げられている「境界線」の問題が興味深く、各イベントにおけるマルクス研究者である斎藤幸平さんとの議論も非常に刺激的だった。

 

佐々木隆治『マルクス 資本論

マルクス 資本論 シリーズ世界の思想 (角川選書)
 

教条主義的な「マルクス主義」」ではなく、「マルクスその人の理論として読むこと」(6)、このような読解を通じてこそ、今日の資本主義の問題に立ち向かうための「理論的武器」(=『資本論』)を扱えるようになる、そんなことを感じさせる一冊。『資本論』を読み解くうえでの必読文献になるだろう。

私たちはマルクスの力を借りることによって、少なくとも思考のうえでは近代社会システムの束縛から自由になり、創造的にその変革を構想することができるのです。(562-3)

本書はこの「思考」を鍛えるための一冊である。

 

唯物論研究協会編『21世紀の<マルクス>-生誕200年』

唯物論研究年誌第23号 : 21世紀のマルクス――生誕200年

唯物論研究年誌第23号 : 21世紀のマルクス――生誕200年

 

座談会はマルクス研究の動向を知る上で非常に参考なる。また、3つの研究レビューは、哲学・経済学・政治学を専門とする方々が書いたものであり、マルクス研究の多様性と可能性が示唆されている。

また、本号にはマルクス・ガブリエルについてのレビュー・エッセイ(大河内泰樹「マルクス・ガブリエルの来日と彼の哲学」)も収録されており、今年のガブリエルブームを振り返るためにも役立つ。

 

マルチェロ・ムスト『アナザー・マルクス

アナザー・マルクス

アナザー・マルクス

 

まずは、マルクスのイメージを刷新するデザインが印象的。訳者あとがきで、江原慶さんが語っているように、「マルクスの研究人生の総合性が一望できるよう、コンパクトにまとめ上げられている」(392)一冊。

 市場経済が地球全体に広がっていくにつれて、資本主義は真に世界的なステムとなり、人間存在のあらゆる側面を侵食・形成してきている。それは私たちの働き方を規定しているだけでなく、社会関係全体を再構成するようになってきている。資本主義は逆境を乗り越え、政治領域からの干渉を打ち破り、自己の論理にしたがって人間関係を組み替えていっている。そして今日、これまでにないほど、ひどい社会的な不正義と持続不可能な環境破壊を引き起こしている。

 当然のことながら、マルクスが一五〇年前に書いたものに、今日の世界の正確な描写は見いだせない。しかし重大な変容が発生してもなお、マルクスは資本主義の本質と発展の両方を理解するための、豊富なツールを提供してくれている。(22) 

これからのマルクス研究が楽しみだし、それを楽しむためにもマルクスそのものも読んでいきたい。