yamachanのメモ

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森政稔『戦後「社会科学」の思想ー丸山眞男から新保守主義まで』

 「若い学生たち歴史的な感覚を持ってもらいたい」(6)という思いから書かれた本書は、戦後の政治学を中心とした社会科学の歴史が描かれており、学生に限らず、「現代」社会を生きる我々にとっても参考になる力作である。また、本書はこの「現代」という言葉の意味を問うことから始まっており、我々がどのような時代を生きているのかということについての思考を促すものとなっている。
 著者のねらいは、「社会の変化と社会科学の主題の転換、そして社会科学の背景にある思想を関係づけること」(8)であり、①「戦後」からの出発、②大衆社会の到来、③ニューレフトの時代、④新自由主義的・新保守主義的転回、という四つの時代を設定して、議論を展開していく。①「戦後」からの出発では、丸山眞男をはじめ、マルクス主義市民社会論が論じられ、それを受けて②大衆社会の到来が語られる。そして、著者が「<政治的なもの>をめぐる議論において、一九六〇-七〇年代は特別に重要な時期であった」*1と指摘する③ニューレフトの時代においては、真木悠介見田宗介)や廣松渉の思想、社会科学の諸領域における理論的刷新についても言及があり、この時代の思想の多様性も学ぶことができる。④新自由主義的・新保守主義的転回では、保守化や統治性の問題、新しい市民社会論と1980年代以降の日本の社会変化等が論じられている。

 以上のような広いテーマをこのボリュームで扱う以上、議論が大股なものになるのはやむをえない。また、1980年代の日本に関する記述は社会の変化に関する記述が多く、この時代の日本における保守思想とポストモダン思想との関係が見えてこないのが残念なところではある。それでも本書は、著者のねらいを十分に達しているだろう。関心を持ったテーマについては、参考文献を頼りに読者が自ら学んでいけばよい。
 アンドリュー・E・バーシェイによると、「現代世界は社会学的知識の対象であるだけでなく、その産物となっている」*2。社会科学をこのように捉えるなら、著者の「社会の変化と社会科学の主題の転換、そして社会科学の背景にある思想を関係づける」というスタンスこそ、まさに社会科学の正統な営みであり、そのような意味で本書は社会科学の教科書としても最適な一冊である。

 

 

 

*1:森政稔『<政治的なもの>の遍歴と帰結』41

*2:アンドリュー・E・バーシェイ『近代日本の社会科学』7