yamachanのメモ

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仲正昌樹『現代哲学の最前線』、小川仁志『哲学の最新キーワードを読む』

 大きく変化していく世界、その世界を見通すために哲学や思想を学びたいという人はいると思う。僕もその一人であり、仲正昌樹『現代哲学の最前線』と小川仁志『哲学の最新キーワードを読む』は、それぞれ違う角度から現代の哲学を解説している。
 『現代哲学の最前線』は、正義論、承認論、自然主義心の哲学、新しい実在論という5つのテーマについて、代表的な理論家を取り上げつつ、「分野横断的な議論」(7)を展開している。仲正さんは「哲学史的な基礎知識」や「歴史的・社会的背景に関する記述」は「最低限に抑えることにした」(7)とのことだが、さまざまな理論家の理論的・思想的連関がわかりやすく説明されており、その議論を通じて各テーマの基礎知識や背景を知ることができるような内容になっている。
 本書を読んで痛感したのは、ハーバーマスとローティの射程の広さ、そして分析哲学の影響力である。ハーバーマスは正義論や承認論において重要な位置を占めると同時に、自然主義との親和性もあることが指摘されている。また、ローティは承認論や自然主義心の哲学において重要な役割を担う人物として取り扱われている。そして、分析哲学は各テーマで取り上げられており、次のような興味深い指摘もある。

“絶対的に確実な近く経験”と思われてきたものは、実は言語によって構成されたものであり、言語の外では意味を持たないのではないかという問いは、分析哲学ポスト構造主義をつなぐ、現代哲学の重要テーマであったわけである。(128)

この指摘もそうであるが、「もっと知りたい、自分で考えたい、という願望を喚起する構成」(5)になっており、『現代哲学の最前線』は優れた入門書である。
 一方、小川仁志『哲学の最新キーワードを読む』は、「ポスト・グローバル化」(3)という新しい世界状況を生き抜くために、感情の知、モノの知、テクノロジーの知、共同性の知という四つの知を接続することで、新たな公共哲学を構築する試みである。
 例えば、『現代哲学の最前線』にも出てくる思弁的実在論においても、次のように「新たな公共哲学の萌芽が見られる」(79)と小川さんは指摘している。

それは理性どころか人間をまったく無化してしまうような、異質な公共哲学である。いわば非-人間中心主義の公共哲学。そこには、社会の他方の極にある「私」は存在しない。社会というかこの世は「私」などお構いなしに存在し、ある瞬間に消えてしまうかもしれない。…「私」が存在しないことは不気味ではない事態としてとらえることも可能だろう。それはありうるのだ。この認識ができるのとできないのとでは、現実のとらえ方が大きく変わってくる。それによって公共哲学の射程は大きく広がるからである。(79-80)

このように、「「私」と社会をいかにつなぐかを考察する学問」(9)としての公共哲学を、四つの知を連接すること=<多項知>から構築していく議論展開は、実践的側面に関心がある方にとっても興味深い内容になっている。
 両著をあわせて読むことで哲学を学びたくなる意欲はより一層強まり、その結果として世界を見通す「力」を持つ人が出てくる、そのように期待したい。

現代哲学の最前線 (NHK出版新書)

現代哲学の最前線 (NHK出版新書)