yamachanのメモ

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林誠『公務員の読み書きそろばん』

 「総務・企画部門から事業部門までどこに異動しても使える仕事基礎・基本スキル80」と表紙に書かれている通り、公務員として働くうえで必要とされる基本的な知識や情報が本書には書かれている。さらに、「どこの部署に異動しても」というだけではなく、「どの年代の人が読んでも」役立つ内容である。つまり、新人・若手職員が公務員としての知識を身につけるためだけではなく、中堅・ベテラン職員が自身の仕事の作法を見直すために読むべき一冊になっている。
 本書の特色は「公務員として」という枠をはみ出すような記述があることだ。例えば、「自治体職員のへおすすめ本」では、ドラッカーの著作や『FACTFULNESS』、『会社四季報業界地図』等の「業界地図」、川端康成太宰治カミュ等の小説が取り上げられている(27)。また、「1つの武器」として「行動経済学」の基礎知識が紹介されているところも興味深い(98-9)。公務員として合理的な思考を持つことはもちろん必要だが、「不合理」や「不条理」についての「知」を持つこと、これも非常に重要である。むしろ、この「不合理」や「不条理」と向き合える職員こそが、組織ではなく社会と向き合える人間だと私は思う。
 一方、コロナ禍という状況において悩ましいのは、「「ワイガヤ」で新たな発想を生む」という項目である(132)。林さんは次のように述べる。

何か思いついたら、その場で顔を上げてすぐに意見を求め合えるような、にぎやかな職場にしたいものです。きっとその職場からは、新しいものが生まれてくるはずです。(133)

林さんのこの考えに私も同意するが、感染症対策から職場では仕切りによってコミュニケーションが取りづらくなったり、チャットツールの積極的な使用により「ささっと立ち話」(133)も困難になりつつある。このような状況下において、「ワイガヤ」という「場」をいかにつくりだすことができるのか、このことを考えていく必要がある。
 働き方が大きく変わりつつ今、「走りながら考える」ということが主張されがちであるが、林さんが指摘しているように、「いったん立ち止まる力」(160)も重要であり、そのためにこそまずは立ち止まって本書を読んでほしい。

どんな部署でも必ず役立つ 公務員の読み書きそろばん

どんな部署でも必ず役立つ 公務員の読み書きそろばん

  • 作者:林 誠
  • 発売日: 2020/06/18
  • メディア: 単行本