政治学
「嫉妬はいち個人の問題だけでなく、広く政治や社会全体にもかかわるものだ」(21)。この「やり過ごすことのできない嫉妬」(236)という問題を、著者は学問横断的に探求していく。 本書を読み進めていくと、自分がいかに嫉妬に振り回されているかを実感し…
多くの人々に「開かれた」公共哲学の新しい教科書が出版された。カント、アーレント、ハーバーマスといった公共哲学の歴史、功利主義、リベラリズムリバタリアニズム、ケイパビリティ・アプローチといった公共哲学の理論、不平等、社会保障、デモクラシー、…
これほど本格的にアイスランドの政治社会を論じた研究書はおそらくないだろう。「地域研究は他の学問分野に比して、潜在的に分野横断的、学際的性質が高い」(25)という言葉通り、アイスランドの民主主義の動態を理論的・実証的に、そして領域横断的に描い…
本書は、著者である松葉氏が経験した「一人の物乞い」の出来事から始まる。「本書を執筆しながら、私は何度もこの出来事と向かうことになった」(ⅱ)ようだが、私たちもまたそれぞれの具体的な状況を思い浮かべながら本書を読むことになる。レヴィナス政治哲…
「租税は平等を実現するための(多くの場合、不平等な)手段なのである」(369)と、税がもたらす平等/不平等について著者は論じている。つまり、課税は不平等であるが、この不平等な課税は、平等という社会状態を実現する限りにおいて正当化されるというこ…
副題に「ルソーからピケティまで」とあるように、不平等の歴史的な展開を紐解いている。さらに、「経済学以前の政治思想から始めて、現代の経済学までにいたる不平等分析を主としてその理論面に焦点を当てて概観してきました」(244)と著者の稲葉氏自身も述…
拡大する格差、社会統合の綻び、政治の不安定化といった諸問題に対して、本書は「市民として」という観点からアプローチしている。「市民として」とは、「社会の制度を他者と共有し、その制度のあり方を決めることができる立場にある者として」(13)という…
「私的所有は部分的に租税システムによって定義される法的な慣習(convention)である」(6)、「租税構造に先立って所有権といったものは存在しない」(82)、「あなたが実際に稼いだものが課税前所得であり、その後に政府が登場してそのいくらかをあなたか…
本書は「税は人間の尊厳を維持するシステム構築のためにある」(6)ことを繰り返し主張している。一方で、税に対する私たちの感覚は、「私の個別労働の成果を奪うもの」、または「政府が私に提供しているサービスへの直接の対価である」(28)というものでは…
本書は、代表制デモクラシーの原理と意義を示しつつ、現代におけるその「歪み」を描いている。政治思想史・政治理論の記述が多いものの、決して抽象的な内容に留まることなく、デモクラシーが現実に直面している問題として頷きながら読むことができる。 まず…
民主主義の「本来の原理に立ち返る」、かつてマキャヴェッリがそう促したように、ヤン=ヴェルナー・ミュラーは本書で民主主義の「原理」-「一昔前の政治思想家なら精神と呼んだだろう」(8)-を示そうとしている。ミュラーは次のように述べる。 人が正しい…
「民主主義に未来はあるのか?」-本書のタイトルになっているこの問いに対して、時間と空間、そして学問領域を超えてアプローチする野心的な一冊である。このような横断性を有する著作は、まとまりの無さ故の読みづらさという欠点を持つこともあるが、編者…
フリーデンは、リベラリズムを「複数の声からなる複合体」(7)と表現している。この複数の声に耳を傾けるために、次のような「歴史的地層」(71)に注目している。 リベラリズムの時間的な層1.個人の権利を保護し、政府の抑圧がないところで人びとが生活…
本論文では、ジョン・ロールズ、ロナルド・ドゥオーキン、ジョセフ・ラズに依拠して、リベラリズムと卓越主義の関係が論じられている。 ロールズの政治的リベラリズムは「民主的社会に現存する重複的合意」に由来するものであり、包括的な善き生の教説には踏…
批判の標的となっているはリベラリズムは批判しやすいように単純化・戯画化された「ダミー」であり、「生身のリベラリズム」は「内部に分裂・緊張・葛藤を抱え、多様な方向への自己変容のポテンシャルを内包している」(10)と、井上達夫氏は指摘する。そし…
リベラル再起動のために、まずは広く横につながることが大切であるが、そのためには最低限共有できる点を確認する必要がある。北田暁大氏・白井聡氏・五野井郁夫氏の三者が同意できることは、以下の点である(116-7)。 ・リベラリズムにおいては機会の平等…
伊藤恭彦氏によると、「現代リベラリズムの規範の根幹は、個人の自由の拡大を反権力あるいは反介入政策と結びつけるのではなく、個人の福祉の向上に対して政府や社会が責任をもつべきであると考えと結びつける点にある」(5)とのことである。そして、現代リ…
北田暁大氏は、「リベラリズム」のアイデンティティについて、「「問い」のレベルでの共通性に同一性の「根拠」を見いだす」(163)井上達夫氏の議論に注目している。井上氏によると、「リベラリズムの自同性の根をなす問い」とは「善から区別された社会構成…
櫻田氏は「保守派」と「リベラル派」との対立の焦点を、「近代国家の枠組み」に依拠して説明している。 保守派は近代国家としての枠組みが敗戦と占領によって著しく損傷されたと考え、この「損傷」の修復を問題意識の中心においてきた。その修復の具体的な内…
「脱成長コミュニズムという妖怪が日本を闊歩している」(144)-このように語る著者は、斎藤幸平『人新世の「資本論」』が資本主義後の明確なビジョンを示したことを評価しつつも、「問題は脱成長コミュニズムが本当に資本主義に代わりうる選択肢なのか」(…
本書は「私物化」をキーワードに、民主主義の理念を明らかにし、代表制民主主義が機能不全に陥っていることを論じている。著者によると、現代の私物化は「社会の私物化」と「政治の私物化」という二つの領域で進行している。より具体的には「新自由主義によ…
シュンペーター、ラクラウ、そしてシュトラウス-この三者を論じることで見えてくるものは何か。それは、本書の帯にも書かれている「非時間性=「革命」の水脈」である。 著者は、シュンペーターの「イノベーション」「アントレプレナー」、ラクラウの「ラデ…
大阪府知事・大阪市長として様々な決断を下し、組織を動かしてきた橋下徹氏が「意思決定の技法」(5)を論じている。本書で語られている内容は、実務においてリーダーシップを発揮する上で、また、危機管理へ対応する上でも役立つ。 橋下氏は、正義の考え方…
本書は、日本型福祉国家における1990年代の家族政策の転換を、言説政治論の枠組みから分析している。日本型福祉国家とは「家族主義の理念と高齢者偏重型の政策体系をもつこと」(1)であり、それと相容れない家族政策は周縁化されてきた。その代表例が、本書…
「黄昏を待ちきれなかったミネルヴァの梟」*1として現実政治に飛び込んだ著者が、「改革の政治」を軸に日本政治を振り返り、現状を打破するためのオルタナティヴを提示している。本書のキーワードである「改革の政治」とは、「強いリーダーシップによって行…
著者は、ヨーロッパとアメリカで「現在台頭しているポピュリズム、二一世紀の極右勢力」を、「ポスト・ファシズム」(7)と位置づける。なぜ、「ポスト」なのか。それは、生物学的人種主義、軍国主義・帝国主義といった特徴を有するファシズムの概念は「新し…
新型コロナウイルス感染症対策において地方自治体に注目が集まっている中、コロナ禍での自治体の動向や今後のあり方を問う、重要な一冊が出版された。 本書の視点は、タイトルが示しているように、「コロナ対策禍」である。「コロナ対策禍」とは、政策課題と…
タイトルにもあるように、本書のキーワードは「公共の利益」であり、政治学の基礎的概念(「政治」「公共の利益」「自由主義」「民主主義」「権力分立」)と、具体的な政治制度や政治過程(「議会」「執政部」「官僚」「選挙」「政党」「団体」)を取り上げ…
民主党政権の「有識者検討会」座長をつとめたり、「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」部会長をつとめる等、政治過程・政策形成の現場でも活動されてきた宮本太郎氏が、この約30年の福祉政治を分析し、新たなる構想を描いた良書。 タイトルにも…
「信頼できる書き手による「道案内」となる本書」(ⅰ)と自負するように、96項目にわたり、各テーマに詳しい62名の研究者が執筆している優れた政治思想のテキストである。本書の構成は、「政治思想とは何か」「政治思想の方法」という理論・方法論から始まり…