yamachanのメモ

日々の雑感や文献のメモ等

読書

山本圭『嫉妬論-民主社会に渦巻く情念を解剖する』

「嫉妬はいち個人の問題だけでなく、広く政治や社会全体にもかかわるものだ」(21)。この「やり過ごすことのできない嫉妬」(236)という問題を、著者は学問横断的に探求していく。 本書を読み進めていくと、自分がいかに嫉妬に振り回されているかを実感し…

ルイ・アルチュセール「出会いの唯物論の地下水脈」

東浩紀は、『存在論的、郵便的』において、アルチュセールの「唯物論的伝統の地下水脈」は、「郵便的思考の哲学史を指すものと解釈できる」(141)と指摘している。以下、「郵便的思考の哲学史」を理解するため、「出会いの唯物論の地下水脈」のメモ。 まず…

箱田徹『ミシェル・フーコー 権力の言いなりにならない生き方』

本書は、現代思想の代表的人物の一人であるミシェル・フーコーの思索を、「一九七〇年代後半から八〇年代前半の「後期」と呼ばれる時期を中心に」(5)論じている。なぜ「後期」に注目するのか。それは、この時期に展開されたフーコーの思想は、「理論的かつ…

加國尚志・亀井大輔編『視覚と間文化性』

本書『視覚と間文化性』は、1993年に出版され、2017年に日本語に翻訳された著作、マーティン・ジェイ『うつむく眼-二〇世紀フランス思想における視覚の失墜』に対して、「日本からの応答をなすもの」(4)である。『うつむく眼』で描かれた思想史からは見え…

齋藤純一・谷澤正嗣『公共哲学入門-自由と複数性のある社会のために』

多くの人々に「開かれた」公共哲学の新しい教科書が出版された。カント、アーレント、ハーバーマスといった公共哲学の歴史、功利主義、リベラリズムリバタリアニズム、ケイパビリティ・アプローチといった公共哲学の理論、不平等、社会保障、デモクラシー、…

塩田潤『危機の時代の市民と政党-アイスランドのラディカル・デモクラシー』

これほど本格的にアイスランドの政治社会を論じた研究書はおそらくないだろう。「地域研究は他の学問分野に比して、潜在的に分野横断的、学際的性質が高い」(25)という言葉通り、アイスランドの民主主義の動態を理論的・実証的に、そして領域横断的に描い…

松葉類『飢えた者たちのデモクラシー レヴィナス政治哲学のために』

本書は、著者である松葉氏が経験した「一人の物乞い」の出来事から始まる。「本書を執筆しながら、私は何度もこの出来事と向かうことになった」(ⅱ)ようだが、私たちもまたそれぞれの具体的な状況を思い浮かべながら本書を読むことになる。レヴィナス政治哲…

安住秀子『財政課も思わず納得!公務員の予算要求術』

予算要求の作業は秋以降となるが、概算要望(政策調整・ローリング等)の作業は4月から準備を進める必要がある。また、予算要求の時期になると、その業務に追われることになるから、事前に予算要求のノウハウを理解しておいた方がよいだろう。最近出版された…

堤直規『公務員の「異動」の教科書』

「異動するのが不安…」。毎年のことながら、この時期には多くの自治体職員が抱える悩み。この悩みを解消し、「うまく異動できる」(3)ためにおススメするのが、堤直規『公務員の「異動」の教科書』である。 堤氏は、「様々な部署への異動を重ねる中で、いか…

明戸隆浩「差別否定という言説-差別の正当化が社会にもたらすもの」(清原悠編『レイシズムを考える』)

論文のタイトルにもあるように、明戸氏は「差別否定」いう概念を提起し、そのメカニズムと対応を検討している。「差別否定」は、「直接的差別」が行われた後で、それを否定したり、正当化したりするもので、「直接的差別」を引き起こす「差別扇動」とあわせ…

堀田義太郎「差別とは何か」(清原悠編『レイシズムを考える』)

「差別ではない、(合理的な)区別である」という言葉を聞くことが少なくない。このような言葉に対して、「その発言自体が差別的である」という批判の声もある。こうした自覚なき差別発言に抗していくためには、これらの発言を批判する側も「差別とは何か」…

五十嵐敬喜『土地は誰のものか-人口減少時代の所有と利用』

近年の土地基本法の改正や土地関連法の整備を見渡しつつ、これら土地政策の根源にある課題は、「所有権の絶対的自由」(31)にあると五十嵐氏は指摘する。公共の福祉の観点から、旧土地基本法は「絶対的土地所有権」を制限し、新土地基本法は「管理」を強化…

秋田将人『誰も教えてくれなかった!自治体管理職の鉄則』

『残業ゼロで結果を出す 公務員の仕事のルール』、『ストレスゼロで成果を上げる 公務員の係長のルール』等の著者である秋田将人さんによる学陽書房からの待望の新著である。学陽書房が出版している秋田さんのどの著作も、実務に直結して役立つものが多い。…

伊藤恭彦「税と平等」(新村聡・田上孝一[編著]『平等の哲学入門』)

「租税は平等を実現するための(多くの場合、不平等な)手段なのである」(369)と、税がもたらす平等/不平等について著者は論じている。つまり、課税は不平等であるが、この不平等な課税は、平等という社会状態を実現する限りにおいて正当化されるというこ…

アレクサンドル・コイレ「イェーナのヘーゲル」

コイレは、「この時期(イェーナ期)の知的作業はとくに熱烈に肥沃」であり、「決定的な形成期であり、この期間にヘーゲルは自らの武器を鍛えあげる」(103)と述べる*1。 まず、本論文で注目すべき概念の一つに「不安定(l'inquiétude)」がある。「この不…

稲葉振一郎『不平等との闘い-ルソーからピケティまで』

副題に「ルソーからピケティまで」とあるように、不平等の歴史的な展開を紐解いている。さらに、「経済学以前の政治思想から始めて、現代の経済学までにいたる不平等分析を主としてその理論面に焦点を当てて概観してきました」(244)と著者の稲葉氏自身も述…

齋藤純一『不平等を考える-政治理論入門』

拡大する格差、社会統合の綻び、政治の不安定化といった諸問題に対して、本書は「市民として」という観点からアプローチしている。「市民として」とは、「社会の制度を他者と共有し、その制度のあり方を決めることができる立場にある者として」(13)という…

L・マーフィー/T・ネーゲル『税と正義』

「私的所有は部分的に租税システムによって定義される法的な慣習(convention)である」(6)、「租税構造に先立って所有権といったものは存在しない」(82)、「あなたが実際に稼いだものが課税前所得であり、その後に政府が登場してそのいくらかをあなたか…

伊藤恭彦『タックス・ジャスティス-税の政治哲学』

本書は「税は人間の尊厳を維持するシステム構築のためにある」(6)ことを繰り返し主張している。一方で、税に対する私たちの感覚は、「私の個別労働の成果を奪うもの」、または「政府が私に提供しているサービスへの直接の対価である」(28)というものでは…

ナディア・ウルビナティ『歪められたデモクラシー 意見、真実、そして人民』

本書は、代表制デモクラシーの原理と意義を示しつつ、現代におけるその「歪み」を描いている。政治思想史・政治理論の記述が多いものの、決して抽象的な内容に留まることなく、デモクラシーが現実に直面している問題として頷きながら読むことができる。 まず…

ヤン=ヴェルナー・ミュラー『民主主義のルールと精神-それはいかにして生き返るのか』

民主主義の「本来の原理に立ち返る」、かつてマキャヴェッリがそう促したように、ヤン=ヴェルナー・ミュラーは本書で民主主義の「原理」-「一昔前の政治思想家なら精神と呼んだだろう」(8)-を示そうとしている。ミュラーは次のように述べる。 人が正しい…

山崎望[編]『民主主義に未来はあるのか?』

「民主主義に未来はあるのか?」-本書のタイトルになっているこの問いに対して、時間と空間、そして学問領域を超えてアプローチする野心的な一冊である。このような横断性を有する著作は、まとまりの無さ故の読みづらさという欠点を持つこともあるが、編者…

小峰ひずみ『平成転向論-SEALDs 鷲田清一 谷川雁』

「時代性が高く、また切実さを感じさせる文章で好感をもった」と東浩紀氏が本書の帯で語っているように、著者の問題意識-それは現代を生きる私たちも抱え込んでいる問題意識でもある-が書かれた一冊である。 著者が注目するのはSEALDsと鷲田清一、そして谷…

マイケル・フリーデン『リベラリズムとは何か』

フリーデンは、リベラリズムを「複数の声からなる複合体」(7)と表現している。この複数の声に耳を傾けるために、次のような「歴史的地層」(71)に注目している。 リベラリズムの時間的な層1.個人の権利を保護し、政府の抑圧がないところで人びとが生活…

濱真一郎「卓越主義のリベラル化とリベラリズムの卓越主義化」(『思想2004.9』)

本論文では、ジョン・ロールズ、ロナルド・ドゥオーキン、ジョセフ・ラズに依拠して、リベラリズムと卓越主義の関係が論じられている。 ロールズの政治的リベラリズムは「民主的社会に現存する重複的合意」に由来するものであり、包括的な善き生の教説には踏…

井上達夫「リベラリズムの再定義」(『思想2004.9』)

批判の標的となっているはリベラリズムは批判しやすいように単純化・戯画化された「ダミー」であり、「生身のリベラリズム」は「内部に分裂・緊張・葛藤を抱え、多様な方向への自己変容のポテンシャルを内包している」(10)と、井上達夫氏は指摘する。そし…

北田暁大・白井聡・五野井郁夫『リベラリズム再起動のために』

リベラル再起動のために、まずは広く横につながることが大切であるが、そのためには最低限共有できる点を確認する必要がある。北田暁大氏・白井聡氏・五野井郁夫氏の三者が同意できることは、以下の点である(116-7)。 ・リベラリズムにおいては機会の平等…

井上達夫『生ける世界の法と哲学』

井上達夫氏は、リベラリズムの歴史的源泉は「人間が理性によって因習や偏見から自己を解放する」啓蒙と、「宗教観や価値観が違っても共存の可能性を探る」寛容であると指摘している(74)。そして、「その哲学的基礎は単なる自由でなく、「他者に対する公正…

伊藤恭彦「現代リベラリズム」(有賀誠・伊藤恭彦・松井暁[編]『ポスト・リベラリズム)

伊藤恭彦氏によると、「現代リベラリズムの規範の根幹は、個人の自由の拡大を反権力あるいは反介入政策と結びつけるのではなく、個人の福祉の向上に対して政府や社会が責任をもつべきであると考えと結びつける点にある」(5)とのことである。そして、現代リ…

宮台真司・仲正昌樹『日常・共同体・アイロニー』

本書において、宮台真司氏はリベラリズムの「端的な事実性」を説いている。端的な事実性とは、「「人間とはこの範囲だ」とか「我われとはこの範囲だ」といった区別の線引きについての事実性」のことであり、「こうした事実性なくして機能しない」(64)とし…