yamachanのメモ

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野口雅弘/山本圭/髙山裕二編著『よくわかる政治思想』

 「信頼できる書き手による「道案内」となる本書」(ⅰ)と自負するように、96項目にわたり、各テーマに詳しい62名の研究者が執筆している優れた政治思想のテキストである。本書の構成は、「政治思想とは何か」「政治思想の方法」という理論・方法論から始まり、古代・中世・近代・現代という時代区分ごとに思想家を取り上げ、政治思想における重要なキーワード、そして「日本」という章を設けており、さまざまなアプローチで利用できるものとなっている。さらに、解説文に出てくる人名・キーワードに対して相互参照できるようにしていたり、テーマごとに参考文献も挙げられているなど、内容面でも充実している。
 「今日、政治思想の守備範囲はますます広がって」(ⅱ)いるが、本書はそれに対応した内容になっている。例えば、従来の教科書類ではあまり扱われていないような人物「フロイトラカン」が紹介されており、政治思想としての意義が語られている。「現代思想と政治思想」では、政治思想における現代思想の重要性が指摘され、ジャック・デリダやジャック・ランシエールジャン=リュック・ナンシー等が取り上げられている。
 編者は本書の読者として、大学生を中心に、中高生や小中高の先生を想定していると述べているが、これらの学校教育に直接的には関係しない(いわゆる)社会人の方にとっても有意義なテキストである。新聞やニュースでも頻出する「ポピュリズム」については、その起源や具体的な現象を紹介しつつ、デモクラシーとの関係が論じられている。また、身近な用語である「代表」についても、代表と民主主義について歴史的・理論的な観点から解説されている。その他にも「ファシズム全体主義」「主権」「憲法9条」等、近年特によく目にする用語が取り上げられており、これらを読むことによって今までとは異なる視座で政治・社会を観察することができるようになるであろう。そして、このような学習は本書のキーワードでも出てくる「シティズンシップ教育」の一環である。
 「政治思想は<いま>と格闘し、過去の書物と対話することで、つねに書き換えられ、上書きされつつある生成物」(ⅱ)であるならば、研究者だけではなく、われわれ市民もまた、その格闘・対話する主体である。政治思想を学ぶにあたってはもちろん、「市民たること」(151)の「道案内」にもなっている、誰もが手元に置くべき一冊である。

よくわかる政治思想 (やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)

よくわかる政治思想 (やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)

  • 発売日: 2021/04/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)