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小紫雅史『地方公務員の新しいキャリアデザイン』

 奈良県生駒市長で多数の書籍も出版している、小紫雅史氏の新著は、『市民と行政がタッグを組む!生駒市発!「自治体3.0」のまちづくり』から発展しつつ、キャリアデザインの観点から、公務員の「在り方」「生き方」を説いている。個人的に関心を持った箇所から本書の体系を示すと以下のようになる。

1 人事制度
(1)プロフェッショナル人材を採用するための3つの条件
 ①「やりがい、キャリア・成長」を実現できる職場の整備
 ②力を発揮できる「人間関係における環境の整備」
 ③「働きやすい『労働』環境の整備
(2)組織にビジョン・ミッション・バリューを浸透させる3つの取組み
 ①ビジョン・ミッションを具体化する事業への優先的な予算・人員の配分
 ②バリューに基づく人材基本方針を定め、人事制度に落とし込む
 ③組織全体を巻き込んだ機運や場づくり
(3)テレワーク・副業を勧める4つの理由
 ①職員満足度を上げ、仕事のパフォーマンスを向上させる
 ②市民に対する説得力を高める
 ③職員の成長と本業への還元
 ④自治体職員自身の豊かな生活につながる
2 自治体の取組み
(1)コミュニティの再生
 ①現役世代のコミュニティに対する意識の変化を生かす
 ②地産地消と自給自足
 ③コミュニティのデジタル化
(2)自治体によるDXの3つの視点
 ①「行政事務」の視点
 ②「住民接点」の視点
 ③「まちづくり」の視点
(3)情報収集を効果的に勧める情報源
 ①国や県、民間会社など、災害関係の専門組織からの情報
 ②自治体独自の情報源による現場からの情報
 ③市民が発信するSNSの情報
3 公務員のキャリアデザイン
(1)3つのバリュー
 ①「市民ファースト」と「公務への誇り」からなる「地元愛」
 ②「市政/信用力」「協創力」「心理的安全性/コミュニケーション」からなる「人間力
 ③「リーダーシップ」「課題設定力」「発想力」「実行力」からなる「変革精神」
(2)π(パイ)字型の人材
 ①自治体職員のバリュー
 ②令和時代の読み書きそろばん
 ③まちづくりの現場経験
(3)コミュニティの活用
 ①地域の力を借りて子育てをする(ライフとコミュニティ)
 ②地域のニーズをビジネスで解決する(ワークとコミュニティ)
 ③地域にランチ友達、飲み友達をつくる(セルフとコミュニティ)
(4)一人の時間を確保する3つのコツ
 ①朝の時間を有効に使う
 ②スマートフォンを使う時間を減らす
 ③イレギュラーな予定を組み込んでいく
(5)リカレント教育の必要性
 ①社会変化への対応
 ②再挑戦の機会
 ③人生100年時代への対応としてのリカレント教育

 小紫氏は、仕事(ワーク)、家庭(ライフ)、地域活動(コミュニティ)、自己実現(セルフの4つの要素について、それぞれでバランスをとるのではなく、効果的に組み合わせることを意識することで、人生を豊かに暮らしていくことができると説いている。ここで興味深いところは、これら4つの要素の境界を明確にするのではなく、「それぞれをブレンドさせ、シナジーを生みながら、自分で自分のキャリアをデザインすることが不可欠」という視点である。つまり、境界を曖昧にすることから新規性や多様性が生まれてくるというのだ。
 このように境界を曖昧にすると、自分の場所や時間を失ってしまうおそれが生じることを危惧する方もいると思うが、小紫氏は「セルフの時間を確保し、自分をプロデュースする方法を考え、実行に移すことが必要」(209)と主張している。ここでのセルフの時間については、「癒しや運動など心身の健康づくり、趣味などのリラックスの時間、自己研鑽、スキルを活かした取組みとその成果の発信」(223)などが挙げられている。
 また、ビジョン・ミッション・バリュー(VMV)に基づくまちづくりや自治体経営が重要となり、職員はこれらを理解し、具体化できなければならない。ここで特に重要なものがバリューであり、それは「ビジョン・ミッションを達成するために、組織やその構成員が大事にする価値観や行動指針」(54)のことである。例えば、生駒市役所のバリューは「生駒愛」「人間力」「変革精神」(116)の3つで、これらの価値観に基づいて職員が行動することを促すような人事の制度や取組みが必要となる。
 小紫氏は「おわりに」で、「変化に対応するだけでなく、変化をチャンスに変えようと説いてきましたが、さらに踏み込んで言えば、変化を待つのではなく、変化を自分で起こさなければいけない」(253)と呼びかける。「そのように言われても出る杭は打たれるよね…」と挫けそうになるところで、「一度うたれたからと変化することをあきらめれば、あなたを打った人と一緒に消滅していくだけです」(253)と檄を飛ばす。そう、そのような人たちと消滅するのではなく、応援してくれる仲間の現れを待つ、そして待つだけではなく見つけに行く、その一歩を踏み出す勇気を与える一冊である。