yamachanのメモ

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ズンク・アーレンス『TAKE NOTES!-メモで、あなただけのアウトプットが自然にできるようになる』

 「成功とは強い意志力と抵抗に打ち勝つ力の産物ではなく、最初から抵抗を発生させない仕事環境の成果である」(50)-本書はそのために、副題にもある「メモ」を始めることを推奨し、その方法論を論じている。そして、この仕事術のモデルとなるのが、ニクラス・ルーマンである。
 ツェッテルカステン*1を活用したルーマンの仕事術の鍵は、「適切なルールをもっていることと、その適切な使い方の両方ができること」(50)である。ツェッテルカステンとルーマンとの関係について、著者は次のように語っている。

ツェッテルカステンはルーマンにとって、対話のパートナー、アイデアの生成装置、そして生産性のエンジンになりました。思考を構造化し、発展させるのに役立ったのです。なにより、使っていて快適でした。(43)

 ルーマンの研究方法やツェッテルカステンというメモ術に関心を持っている人にとって、本書は非常に魅力的であろう。また、それらに関心を持っていない読者にとっても、仕事の方法論として本書は役立ちうる。例えば、現代の仕事においては「集中」と「持続的な注意」、「柔軟性を保った集中力」(136)が必要であることが指摘されている。そして、「柔軟になることが可能なしくみ」(136)が大切であり、そこからツェッテルカステンへと導かれる。
 読書を通じた思考について、「本の中で言及されていることと同じくらい、言及されていないことについても熟考する必要あります」(156)と著者は指摘する。このことについては、ルーマンの次の発言も参考になる。

ある主張をするとき、その主張が意味していないこと、除外していることは何だろうと、常に問うのは理にかなっている。たとえば誰かが『人権』について論じているとして、その論ではどのような区別がなされているだろうか。『人間以外の権利』との区別だろうか、はたまた『人間の義務』との区別だろうか。比較するのは、文化だろうか。それとも、人権という概念を知らなかったにもかかわらず問題なく集団生活を送っていた歴史上の人々だろうか。
テキストがこの問いにまったく答えていなかったり、明確に答えていなかったりすることもよくある。その場合は、自分の想像力に頼らなければならない(170)

つまり、「幅広い知識をもつ能力よりもさらに重要なのが、問いや主張や情報を新たな枠組みでとらえ直す能力」(171)ということである。
 欲を言えば、ルーマンが具体的にどのようなメモをとって、どのように作品をつくりあげたのか、その詳細なプロセスを知りたかった。また、研究以外の仕事における具体的な実践例も解説してほしいところ。一方で、日本版特別付録として「メモのとり方」の概要を掲載してくれているのはありがたい。「読者自身が実践例となれ」という著者のメッセージとして受け止め、日々の生活に変化を起こしていきたい。

 

*1:「ドイツ語でツェッテルはカードや紙、カステンは箱の意」であり、「世界中でよく知られている情報収集メモの取り方の方法」(38)である。