yamachanのメモ

日々の雑感や文献のメモ等

予算の繰越しについて

「未契約の工事費を次年度に繰り越すことはおかしいので、増額予定があるなら変更契約してから繰り越してください」-ある年度末の手続きの中で、財政担当課からこのように言われたことがある。「そもそも『繰越し』ということ自体が例外的なもので、変更契約が想定できるからといってその想定額まで繰り越しするというのは不可」であると。つまり、繰越しするのは「契約額(の内、未執行のもの)」に限るという論理である。年度末から年度当初の事務処理の中で、この出来事を思い出したのでメモ。

まず、繰越明許費は地方自治法第215条にて規定されている予算の内容の一つである*1。また、地方自治法第208条第2項では、「自治体の歳出は、その年度の歳入をもって充てなければならない」という「会計年度独立の原則」が定められている。繰越明許費は、この会計年度独立の原則の例外である*2

繰越明許費の説明は、塩浜克也・米津孝成『「なぜ?」からわかる地方自治のなるほど・たとえば・これ大事』の以下の説明がわかりやすい*3

繰越明許費とは、歳出予算に計上した経費のうち、その性質や予算成立後の事由により年度内に支出が終わらない見込みがあるものについて、予算として定めることにより、翌年度に繰り越して使用することができる制度です(自治法213条)

結果として事業は複数年度にわたりますが、当初の予算設定は単年度であり、また、翌年度までの繰越しにとどまる点で、継続費とはことなります。対象となるは、「道路や公共施設を建設するための予算を準備したが、用地買収が難航した」などの場合です。(90)

では、財政担当課が指摘するとおり、未契約分を繰り越すことはできないのか?もちろん、執行見込みがないものを繰り越すことには問題がある。しかし、そうでない場合でも「未契約」という理由で繰越しできないのか。定野司『自治体の財政担当になったら読む本』では、「繰越明許費に計上すれば、未契約の仕事を翌年度に契約することもできます」(82)とある。だが、これは国の補正予算を受けた3月補正、いわゆる15か月予算*4のような例外的な扱いであり、そうでないものについては認めることができないというのが財政担当課の論理であった。

以上のことから、翌年度で変更契約が想定できるものは繰り越しすることができないのか。松木茂弘『自治体財務の12か月<第1次改訂版>』には、次のような説明がある。

繰越明許費の繰越ですが、すべて予算の議決の範囲内で繰越額を決定することになります。予算の議決は限度額ですので、全額を繰り越すか一部にするかの判断が必要となります。この場合、翌年度で変更契約が想定できるものは不用額を含めて繰り越すかどうかの判断が必要となります。…なお、景気対策で国の補助金を財源として前年度に前倒して予算を計上した場合は、未契約の状態で全額を翌年度へ繰り越すことになります。(39)

これらの資料を提示しつつ、土木工事の性質を説明することで、変更契約が想定できるものも繰り越しすることができたが、「これはあくまでも例外的な扱いだから、できるだけこのようなことが生じないように」ということであった。

補足だが、繰越処理のスケジュールについても、『自治体財務の12か月<第1次改訂版>』の以下の記述が参考になる。

タイムスケジュールとしては概ね4月の第1週ぐらいまでに終わらせるようにしますが、事業の内容によっては、4月1日から支出負担行為などの財務執行手続きが必要なものがあり、新年度スタート時点ですぐに予算の繰越手続きが必要なものがあり、新年度スタート時点ですぐに予算の繰越手続きが必要なケースがあります。一方で、道路事業などの公共事業の場合、工事検査の関係によって繰越事業費の確定が遅れるため、4月下旬ぐらいまで手続きがずれ込むものもあります。したがって、一斉に事務処理が行えるものではありませんので、ここの事業内容によって個別に対応する必要がでてきます。(38)

財政担当課と事業担当課、それぞれの経験の範囲内でのみ思考・判断するのではなく、それぞれの事務手続きや事業の性質を理解しあって、スムーズかつ適正に事務処理を行っていきたい。

 

*1:地方自治法第215条にて、予算の内容は、①歳入歳出予算、②継続費、③繰越明許費、④債務負担行為、⑤地方債、⑥一時借入金、⑦歳出予算の各項の経費の金額の流用、からなると定められている

*2:定野司『自治体の財政担当になったら読む本』では、会計年度独立の原則の例外として、繰越明許費のほか、継続費の逓次繰越、事故繰越、翌年度歳入の繰上げ充用、決算剰余金の繰越しなどをあげている(99)。一方、小西砂千夫『地方財政学-機能・制度・歴史』では、「会計年度独立の原則の例外として、継続費、繰越明許費、債務負担行為の3つの予算が設けられている」(431)と説明されている。なお、定野司『自治体の財政担当になったら読む本』では、継続費と債務負担行為は、予算単年度主義の例外として扱われている。

*3:塩浜克也『月別解説で要所をおさえる!原課職員のための自治体財務』128頁以降も参照。

*4:3月補正・15か月予算については、松木茂弘『自治体予算編成の実務』70頁以降、同『自治体財政Q&Aなんでも質問室』20頁以降が参考になる。