2020-01-01から1年間の記事一覧
日本を代表する思想家の一人、東浩紀氏が書いた「批評の本でも哲学の本でもない」、「私小説あるいは自伝」(266)のような一冊だ。具体的には、2010年に創業されたゲンロンとともに歩んだ10年の軌跡を振り返ったもの。しかし、「哲学はあらゆる場所に宿りま…
仕事をする上で、「なぜこのような調整が必要なのか?」と批判の対象ともなる「調整」について論じた一冊。調整術を理論的に説明した1章から3章、①組織(庁内)における調整、②議会との調整、③地域との調整、④国や他自治体などの関係機関との調整という4つの…
政治学や社会学、そして哲学の書棚にも置かれるほどに多様な領域に多大な影響を与え、現代を代表する思想家の一人であるユルゲン・ハーバーマスの全貌に迫る一冊だ。第Ⅰ部では討議倫理学や公共圏、法・憲法といったテーマ・トピックに即して、第Ⅱ部ではハー…
『政治改革再考』というタイトルからは、具体的な「制度」に着目した内容を想像するが、実際はそうではない。制度内容や制度変遷はもちろんのこと、その背景にあるアイディアについても分析されており、「政治改革の全体像」(5)が描かれているのが本書の魅…
「哲学書を読む哲学書」であり「<読むこと>を徹底的に行う」(9)とする本書は、「書物一般」ではなく、「哲学書」を読むことの特異性にフォーカスを当てた良書だ。「本を読む本」や「本の読み方」と称する書物はたくさんあるが、この本は「哲学書」を「読…
2016年、ブレグジット投票とアメリカ大統領選挙を背景に、オックスフォード大学出版局辞典部門が今年の一語にノミネートした「ポストトゥルース」という現象が、世界中の注目を集めた。著者のマッキンタイアは、ポストトゥルースとは「何か」を問うとともに…
美しい装丁が印象的な本書で扱われているのはバウムガルテン、名前こそ知っているが、「どこか顔が見えないところがある」(ⅳ)人物だ。そして、本書のテーマである「美学」についても、「バウムガルテンの空白のイメージが象徴しているように、学科としての…
現代プラグマティズムを代表する思想家であるロバート・ブランダムが、邦訳タイトルが示している通り、プラグマティズムの過去から未来を描き出した、重量級の書物だ。ブランダム自身は序章において次のように語っている。 ドイツ観念論において際立っている…
本書のタイトルどおり、「民主主義とは何か」という基本的な問いに向き合った一冊。民主主義の歴史を振り返るだけではなく、ルソー、トクヴィル、ミル、ウェーバー、シュミット、シュンペーター、ダール、アーレント、ロールズといった政治思想家についても…
特集のタイトルにある、「大阪都構想」によって「日本は没落する」という論理が気になって、『表現者 クライテリオン11 特集:「大阪都構想」で日本は没落する』を読んでみた。以下、大阪都構想と日本没落とが関係ありそうな発言をメモ。 柴山桂太:大阪都構…
著者であるボヤン・マンチェフは本書について、「ジョルジュ・バタイユについての本ではなく、バタイユを出発点とする本である」(9)と述べる。また、訳者である横田祐美子さんも「バタイユについてのテクストではなく、バタイユから出発して、バタイユと…
メイヤスーの語る唯物論についてメモ。 私にとって、唯物論はカギとなる次のような二つの言明を持っています。1.<存在>は、(主観性の広い意味で理解される)思考とは分離され、また思考から独立している。2.<思考>は<存在>を思考することができる…
「新実在論」「新実存主義」を掲げるマルクス・ガブリエルと中国哲学を専門とする中島隆博。どのように対話が成立するのかと思っていたが、対話は共鳴しあい、読者を惹き付ける。中島氏がガブリエルに対して、そして哲学に対して誠実に向き合っているためで…
「共同体・権力・争点の三位一体からなる政治のコンテンツがグローバルな環境と個人的な文脈によって各国でどう崩壊し、それとともに、それぞれがどのような変化を見せているのかを特定する」(29)ことを目的として本書は、帯にもあるように「不安なくらい…
実に痛快かつ明快な一冊だ。著者は、本書の冒頭で読者にこう問いかけている。 温暖化対策として、あなたは、なにかしているだろうか。レジ袋削減のために、エコバッグを買った?ペットボトル入り飲料を買わないようにマイボトルを持ち歩いている?車をハイブ…
「新型コロナウイルスの流行は、フーコーの思想が持つ力を再度示したと言えるだろう」(16)と多くの人が思っているところに、重要なフーコーの研究書が出版された。著者は「時代の趨勢から微妙な距離を取ることで、フーコーの思想は結果的に、その後明らか…
宇野常寛氏は、「平成とは「失敗したプロジェクトである」」と述べ、「政治」(二大政党制による政権交代の実現)と「経済」(20世紀的工業社会から21世紀的情報社会への転換)の「改革」のプロジェクトが失敗した時代として「平成」を位置づけた(『遅いイ…
まちあるきのツアー本だが、本書を読んで思い浮かべた哲学者がいる。そのうちのひとりがジャック・デリダだ。なぜか?それはツアーのプログラムに組み込まれた短編小説の内容と、小説に出てくる「相田家」の設定による。その設定とは、「相田家は、典型的な…
「『なぜ世界は存在しないのか』の内容を踏まえ、ガブリエルに基本的かつ本質的な疑問を投げかけている」(19)インタビューとのことであるのでメモ。 ○ガブリエルの哲学上の立場 ガブリエル:私はきわめて伝統に忠実な現代の哲学者です。…私はただ理性その…
次期首相候補の一人、菅官房長官が「自助・共助・公助」を唱える今、「公助が酷薄な現代世界を生きるには、何より未完のプロジェクトとしての「強い個人」の育成強化とその自助を前提とした共助しか残されていないとする立場とも異なる」(9)理念を持つ本書…
マルクス・ガブリエルの哲学に対して、その批判点を本人へ直接質問している大変面白く、勉強になる千葉雅也氏との対談「「新実在論」「思弁的実在論」の動向をめぐって」(『ニュクス 5号』所収)のメモ。 ○相対主義の実在論化 千葉:あなたの理論では、実在…
デリダ(宮﨑裕助)、ヘーゲル(大河内泰樹)、マルクス(斎藤幸平)の専門家が、マルクス・ガブリエルの哲学について議論した鼎談(『現代思想 2018.10月臨時増刊号』所収)。ガブリエルの著作を読むにあたっても参考になると思って再読したので、気になった…
仕事においてスピーチをすることが多くなると思っていたところ、愛読してきた橋爪大三郎氏の新著『パワースピーチ入門』を本屋でたまたま発見。最近は橋爪氏の著作から遠ざかっていたが、本書は橋爪社会(科)学の実践書とも言えるような内容であり、大変興…
近年では、映画『ハンナ・アーレント』が話題になったり、「新書によるアーレントの入門書が出版され続け」(317)ることで、一般の人びとにもその名を知られるようになったハンナ・アーレントが『読本』シリーズとして刊行された。まず手に取って驚くのが本…
思弁的実在論の潮流の原点とも言うべき2007年のゴールドスミス・ワークショップの登壇者の一人であるグレアム・ハーマンが、自身とその他の登壇者(レイ・ブラシエ、イアン・ハルミトン・グラント、カンタン・メイヤスー)の思想を章ごとに解説している。各…
本書は1950年代~70年代初頭にかけての「前期デリダ」の思想展開を検討し、「戦争」という概念が主題化されていった過程を明らかにするもの。デリダおいて問題となる「戦争」は、私たちが通常思い浮かべる「武力衝突や政治的な緊張関係」(10)を指すもので…
「経済的には社会主義、文化的に保守主義、政治的には自由主義」(299)を自身のスタンスとする著者が、「新天下主義」を目指すべきものとして掲げ、歴史主義、国家主義、新儒家という三大反啓蒙の思潮を批判したのが本書である。タイトルからは哲学・現代思…
近年注目を集めている実在論はどのようなものなのか、そしてその注目は何を意味するのか、これらの疑問を解消するために3冊の本を読んでみた。 1 千葉雅也『思弁的実在論と現代について』 思弁的実在論を主題とする対談と、思弁的実在論の実践的適用をめぐ…
「総務・企画部門から事業部門までどこに異動しても使える仕事基礎・基本スキル80」と表紙に書かれている通り、公務員として働くうえで必要とされる基本的な知識や情報が本書には書かれている。さらに、「どこの部署に異動しても」というだけではなく、「ど…
世界中をゆるがせている新型コロナウィルス感染症について、2020年前半における感染拡大の経緯と対策を記述し、その状況に対して「走りながら考え」(199)、社会学的分析を行った本書は、コロナ危機に対する見通しを良くし、我々が立ち止まって思考するきっ…