yamachanのメモ

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当初予算と補正予算(いわゆる15か月予算について)

 この時期になると、当初予算の要求に加え、国の経済対策としての補正予算にあわせた、自治体での補正予算編成事務が生じてくる。ここでの補正予算とは、いわゆる「15か月予算」のことであり、「予算の前倒し」としても表現される。

 財政部局の立場としては、この補正予算は当初予算と同時期の議会対応となり、「補正予算は有利な財源を活用できるということ以外は当初予算と同じもの」という認識で、補正のメニューに合うものは補正予算で要求することが「当たり前」となっている。

 しかし、この「当たり前」は本当に「当たり前」なのか。まず、補正予算については、地方自治法218条第1項で次のような規定がある。

第二百十八条 普通地方公共団体の長は、予算の調製後に生じた事由に基づいて、既定の予算に追加その他の変更を加える必要が生じたときは、補正予算を調製し、これを議会に提出することができる。

「既定の予算に追加その他の変更を加える必要が生じたとき」について、橋本勇『自治体財務の実務と理論 改訂版』では、次のように説明されている*1

年度途中に生じた災害の復旧や国の新規施策への対応等のために歳出予算の内容を変更する必要が生じたり、予期せざる税収の落ち込みや財産処分の延期等によって歳入見込みに変動が生じたりしたような場合には、補正予算を調整し、議会の議決を求めることができることとなっている。(341)

このような補正予算の原理原則を踏まえつつも、国の補正予算にあわせた自治体の2月補正・3月補正は、「当初予算要求時期と同じ時期」であるため、「有利な財源」という以外は、当初予算との差異はないのか。ここで参考になるのが、松木茂弘『一般財源の縮小時代に機能する 自治体予算編成の実務』の記述である*2

国においては、ここ数年は経済対策として、景気に配慮した切れ目のない予算対応をすることをめざした補正予算が年明けの通常国会で成立するケースが多くなってきています。それに伴って自治体の方でも補正予算の編成が必要になってきます。所謂、15か月予算といわれるもので、そのようなケースでは3月議会に提案すべく次年度予算の前倒し作業をして補正予算を編成していくことになります。

ただし、ほとんどのケースは繰越明許費を設定した繰越事業となります。この編成の場合に留意することは、その事業の実施環境です。繰越して予算を確保するものの、次年度内で完成しなければ、景気対策にならず、国の交付金等の充当ができないことになります。したがって、予算を計上する際には、担当課と実施環境について十分な協議を行っておくことが必要です。(70-1)

ここで重要なことは、次年度中に確実に執行できる実施環境であるかということを協議・確認しておく必要があるということである。確実に執行できる環境でないにもかかわらず、「有利な財源だから」という財政的な理由のみで補正予算を「強引に」計上することは、あるべき姿ではない。

 また、議会の審議という観点からは、次のように説明されている。

当初予算に比べると補正予算に対する力の入れ方は、やはり違いがあります。暫定予算や骨格予算を肉付けする場合は除き、通常の補正予算編成では、プロセスの時間のかけ方も議会の審議も当初予算に比べるとかけるエネルギーは少なくなるところです。補正予算という性質上、当然の部分もありますが、近年、国の景気対策、緊急防災対策などによる補正予算などを受けて、本来、自治体として当初予算で検討をし、議会の慎重な審査を受けて事業化されるものが、国の財源がセットされているというインセンティブにより、ゆるゆるで補正予算が成立する傾向にあります。

財源がセットされれば、首長も議会もOKしてしまう風潮が自治体にあることは否定できませんが、自立した自治体として、事業の効果と将来の行政運営への影響を考慮した議論は必ず必要です。(71)

このように、「議会の審議」という観点から、当初予算と補正予算とでは、審議する時期が同じであっても、その「力の入れ方」には違いがあると言えよう。ここでも「有利な財源だから」という財政的な理由のみで補正予算を「強引に」計上することには問題があり、「財源のあるなしだけでは、住民に説明しきれない」(71)のである。

 もちろん、有利な財源を活用することで市民サービスが向上するのであれば、積極的に補正予算は活用すべきであろう。しかし、「有利な財源を活用する」ことが目的化してはいけない。それはあくまでも必要な事業を効果的に遂行するための「一つの手段」なのである。

 

 

*1:補正予算の具体例としては、塩浜克也『月別解説で要所をおさえる!原課職員のための自治体財務』124-6も参考になる。

*2:松木茂弘『自治体財務の12か月 第1次改訂版』225も参照。