yamachanのメモ

日々の雑感や文献のメモ等

2022-01-01から1年間の記事一覧

伊藤恭彦『タックス・ジャスティス-税の政治哲学』

本書は「税は人間の尊厳を維持するシステム構築のためにある」(6)ことを繰り返し主張している。一方で、税に対する私たちの感覚は、「私の個別労働の成果を奪うもの」、または「政府が私に提供しているサービスへの直接の対価である」(28)というものでは…

ナディア・ウルビナティ『歪められたデモクラシー 意見、真実、そして人民』

本書は、代表制デモクラシーの原理と意義を示しつつ、現代におけるその「歪み」を描いている。政治思想史・政治理論の記述が多いものの、決して抽象的な内容に留まることなく、デモクラシーが現実に直面している問題として頷きながら読むことができる。 まず…

民法と自治体契約実務(請負)についてメモ

1 民法の性質*1(1)民法は私法の一つである 公法とは、国や公共団体の内部や相互間の関係を規律するルール、および、それらと私人との関係を規律するルール。私法とは私人相互間の関係を規律するルール。 (2)民法は一般法である 上記の商法等(特別法…

ヤン=ヴェルナー・ミュラー『民主主義のルールと精神-それはいかにして生き返るのか』

民主主義の「本来の原理に立ち返る」、かつてマキャヴェッリがそう促したように、ヤン=ヴェルナー・ミュラーは本書で民主主義の「原理」-「一昔前の政治思想家なら精神と呼んだだろう」(8)-を示そうとしている。ミュラーは次のように述べる。 人が正しい…

山崎望[編]『民主主義に未来はあるのか?』

「民主主義に未来はあるのか?」-本書のタイトルになっているこの問いに対して、時間と空間、そして学問領域を超えてアプローチする野心的な一冊である。このような横断性を有する著作は、まとまりの無さ故の読みづらさという欠点を持つこともあるが、編者…

小峰ひずみ『平成転向論-SEALDs 鷲田清一 谷川雁』

「時代性が高く、また切実さを感じさせる文章で好感をもった」と東浩紀氏が本書の帯で語っているように、著者の問題意識-それは現代を生きる私たちも抱え込んでいる問題意識でもある-が書かれた一冊である。 著者が注目するのはSEALDsと鷲田清一、そして谷…

マイケル・フリーデン『リベラリズムとは何か』

フリーデンは、リベラリズムを「複数の声からなる複合体」(7)と表現している。この複数の声に耳を傾けるために、次のような「歴史的地層」(71)に注目している。 リベラリズムの時間的な層1.個人の権利を保護し、政府の抑圧がないところで人びとが生活…

濱真一郎「卓越主義のリベラル化とリベラリズムの卓越主義化」(『思想2004.9』)

本論文では、ジョン・ロールズ、ロナルド・ドゥオーキン、ジョセフ・ラズに依拠して、リベラリズムと卓越主義の関係が論じられている。 ロールズの政治的リベラリズムは「民主的社会に現存する重複的合意」に由来するものであり、包括的な善き生の教説には踏…

井上達夫「リベラリズムの再定義」(『思想2004.9』)

批判の標的となっているはリベラリズムは批判しやすいように単純化・戯画化された「ダミー」であり、「生身のリベラリズム」は「内部に分裂・緊張・葛藤を抱え、多様な方向への自己変容のポテンシャルを内包している」(10)と、井上達夫氏は指摘する。そし…

北田暁大・白井聡・五野井郁夫『リベラリズム再起動のために』

リベラル再起動のために、まずは広く横につながることが大切であるが、そのためには最低限共有できる点を確認する必要がある。北田暁大氏・白井聡氏・五野井郁夫氏の三者が同意できることは、以下の点である(116-7)。 ・リベラリズムにおいては機会の平等…

井上達夫『生ける世界の法と哲学』

井上達夫氏は、リベラリズムの歴史的源泉は「人間が理性によって因習や偏見から自己を解放する」啓蒙と、「宗教観や価値観が違っても共存の可能性を探る」寛容であると指摘している(74)。そして、「その哲学的基礎は単なる自由でなく、「他者に対する公正…

伊藤恭彦「現代リベラリズム」(有賀誠・伊藤恭彦・松井暁[編]『ポスト・リベラリズム)

伊藤恭彦氏によると、「現代リベラリズムの規範の根幹は、個人の自由の拡大を反権力あるいは反介入政策と結びつけるのではなく、個人の福祉の向上に対して政府や社会が責任をもつべきであると考えと結びつける点にある」(5)とのことである。そして、現代リ…

宮台真司・仲正昌樹『日常・共同体・アイロニー』

本書において、宮台真司氏はリベラリズムの「端的な事実性」を説いている。端的な事実性とは、「「人間とはこの範囲だ」とか「我われとはこの範囲だ」といった区別の線引きについての事実性」のことであり、「こうした事実性なくして機能しない」(64)とし…

宮台真司・藤井誠二・内藤朝雄『学校が自由になる日』

宮台真司氏は、ジョン・スチュアート・ミル『自由論』を挙げて、「リベラリズムとは、個人の尊厳を与える、愚行を含めて自己責任でなされる自由な試行錯誤を保証するような社会制度に、価値的にコミットする思想的態度を示すもの」(17)と説明している。ポ…

北田暁大+鈴木謙介+東浩紀「リベラリズムと動物化のあいだで」(東浩紀編著『波状言論S改』)

東浩紀氏は、自由の概念を「所有権にもとづいたリバタリアニズム的なものと、社会の異種混淆性や他者への開放性を重視するリベラリズム的なもの」(168)に分ける。前者が他者の迷惑にならない限りは何をやってもよいという自由で、後者が他者のことも考えて…

北田暁大「現代リベラリズムとは何か」(仲正昌樹・清家竜介・藤本一勇・北田暁大・毛利嘉孝『現代思想入門』)

北田暁大氏は、「リベラリズム」のアイデンティティについて、「「問い」のレベルでの共通性に同一性の「根拠」を見いだす」(163)井上達夫氏の議論に注目している。井上氏によると、「リベラリズムの自同性の根をなす問い」とは「善から区別された社会構成…

北田暁大「知的緊張を追体験せよ-”理論武装”のためのブックガイド海外編」(『論座2005.7』)

北田暁大氏は、近代リベラリズムを特徴づけるものとして、「私的所有、自己決定、自律といった個人主義的な契機」と、「市場主義(自己調整機能への着目)」を取り上げている(79)。それは以下のように分類される*1。 私的所有:ジョン・ロック『市民政府論…

浅羽通明「日本的「自由」の困難性について-”理論武装”のためのブックガイド国内編」(『論座2005.7』)

浅羽通明氏は、「個人の独立の伸長を何より尊重し、そのための手続き、手段として法の尊重と権力の必要を認める」(72)といったリベラルの基本を、福澤諭吉が『学問のすゝめ』において宣言していたことを指摘している。そして、福澤は経済的自立と精神的自…

稲葉振一郎「「ネオリベ」批判を越えて」(『論座2005.7』)

稲葉振一郎氏は、「新自由主義=新保守主義は、内政、社会経済政策における『小さな政府』論、市場原理主義と、外交におけるタカ派リアリズムとの混合物である」という「ケインズ主義の黄昏とネオリベラルの勝利のお話」(69)を批判的に捉えることから、リ…

佐伯啓思「「真の保守主義」再生しかない」(『論座2005.7』)

佐伯啓思氏は、進歩主義の理念を纏ったリベラリズムが支配的イデオロギーとなっていることを指摘している。進歩主義には次の二つの柱がある、 (1)西欧近代社会が生み出した自由や平等、人権、個人主義(個人の尊厳)、幸福への欲求などは普遍的価値をもつ…

大澤真幸「第三者の媒介で「新しい自由」を切り開け」(『論座2005.7』)

大澤真幸氏は、リベラリズムを「自由を、(他者の同様な)自由とは異なる根拠によって抑圧すべきではないとする思想」(46)と定義し、リベラリズムの理念として「個人がこの経験的世界で帯びる偶発的な性質を無化し、還元すること」(48)を提示している。 …

櫻田淳「普通の国」になればまた出番がやってくる(『論座2005.7』)

櫻田氏は「保守派」と「リベラル派」との対立の焦点を、「近代国家の枠組み」に依拠して説明している。 保守派は近代国家としての枠組みが敗戦と占領によって著しく損傷されたと考え、この「損傷」の修復を問題意識の中心においてきた。その修復の具体的な内…