『政治改革再考』というタイトルからは、具体的な「制度」に着目した内容を想像するが、実際はそうではない。制度内容や制度変遷はもちろんのこと、その背景にあるアイディアについても分析されており、「政治改革の全体像」(5)が描かれているのが本書の魅力だ。具体的には、「アイディアとその土着化という視点から、マルチレヴェルミックスに影響を当てる制度変革として政治改革を捉える」(38)という分析視点により、中央政府の改革として選挙制度改革と行政改革、中央政府以外の改革として日本銀行の改革、司法制度改革、地方分権改革を論じている。そして、本書の立場をこのように述べる。
基本理念を共有しながら、土着化が必要不可欠であったために、それが異なった方向での制度変革につながり、公共部門全体の作動に対しては期待した成果にもつながらなかった。このことが、政治改革を理解する上での最大のポイントだというのが、本書の立場である。(40)
本書で論じられる政治改革に共通する基本理念が「近代主義」であり、「近代主義とは、日本の政治・経済・社会のあり方、およびそこでの個々人の生き方について、より「近代化」することが望ましいという考え方」(69)である。また、「近代化とは、人々の行動様式や社会の構成原理が、根拠のない思い込みや慣習、権威とされるものへの盲従や信従から離れ、個々人が自ら行う判断に基づく、目的に対して合理的なものになること」(69-70)を指す。具体的には政治改革には次のような共通認識がある。
改革が目指したのは、日本の公共部門における様々な意思決定において、自律した個々人がより積極的かつ広範に決定に加わることであった。日本社会を構成する有権者(国民)が政治権力を自らの責任で作り出し、行使し、その結果を引き受けること、といってもよいだろう。(67)
しかし、このような近代主義の理念は、個々の領域において具体的な制度変革が進められる過程では、以下のように、「土着化によって実質的に異なった志向性を帯びることになった」(270)。
領域ごとに土着化が進められた結果として、選挙制度改革や行政改革のように従来よりも集権的な意思決定メカニズムの確立を目指す場合と、中央銀行改革や地方分権改革のように従来よりも領域の自律性(独立性)を強めようとする場合が混淆することになったのである。さらには、自律性を強めた領域の内部に新たに生み出される意思決定メカニズムがどのようなものになるかについて、地方分権改革のように明確な方針が示されない場合もあった。司法制度改革のように、改革の実施後に内部アクターの巻き返しという形で土着化が生じる領域も存在した。(270)
そして、政治のあり方や制度変革について考える上では、「改革の全体像とそれを支える理念を明確に定め、土着化による影響をできるだけ小さくすることが必要となる」(279)と著者は指摘する。個別領域の制度変遷を捉えつつ、その背景にある共通認識とそこからの土着化というズレをマクロな視点から論じる本書は、これからの政治・行政を考えるための必読の一冊だ。