yamachanのメモ

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田村哲樹・加藤哲理編『ハーバーマスを読む』

 政治学社会学、そして哲学の書棚にも置かれるほどに多様な領域に多大な影響を与え、現代を代表する思想家の一人であるユルゲン・ハーバーマスの全貌に迫る一冊だ。第Ⅰ部では討議倫理学や公共圏、法・憲法といったテーマ・トピックに即して、第Ⅱ部ではハーバーマスが対峙してきた様々な思想や理論との関係から、「ハーバーマスと「ともに」」(127)、また「ハーバーマスに「抗して」」(128)論じることで、その思想を明らかにしていく。

 ハーバーマスと言えば、「理想主義的」(66)、「理性の擁護者」(124)、「合意を強く志向する思想家」(161)という印象を持つが、『ハーバーマスを読む』はこのような「単純化を許さない彼の理論構成」(49)を明らかにしていく。このような試みが成功しているのは、先述した2部構成により多面的に議論されていることに加え、ハーバーマスの専門家にとどまらない執筆者の多様性の故であろう。

 そして、本書に収録されている多様な各論考が相互に連関し合っていることも、ハーバーマスの「多様かつ壮大な理論体系」(帯より)を理解することに寄与している。例えば、第4章「労働と福祉国家」において、二クラス・ルーマンの社会システム理論が後期資本主義を論じる中で取り上げられているが、第8章「ハーバーマスと社会システム理論」とあわせて読むことで「労働と福祉国家」というテーマの背景にある思想・理論を拠り深く理解することができる。また、第5章「宗教」においては<ポスト世俗社会>論の文脈でハーバーマスの「翻訳」論が取り上げられる一方、第11章「ハーバーマスと「政治的なもの」」では「政治的なもの」の文脈で取り上げられており、「翻訳」という概念を通じて宗教と「政治的なもの」との関係がより一層見えてくる。このような各論考の相互連関により、「単純化を許されない」ハーバーマス像が浮かび上がってくるのだ。

 以上のような構成により、本書は「時期・テーマともにかなり包括性の高い内容」(ⅳ)となっており、ハーバーマス理論の「展開可能性」(22)を示すものとなっている。そして、ハーバーマスがそうであるように、私たちも「絶えざる「学習過程」」(296)を歩み続けていこう、このような気持ちを掻き立てられる一冊でもある。

ハーバーマスを読む

ハーバーマスを読む

  • 発売日: 2020/11/20
  • メディア: 単行本