「「仕方がない」と諦めてしまうのではなく、「仕方がある」ことを知り、小さな行動を起こそうと思える」(1)、本書はこの「大きな」一歩を踏み出すためのきっかけを与えてくれる。その方法が、タイトルにもなっている「コミュニティ・オーガナイジング」である。コミュニティ・オーガナイジングとは、「仲間を集め、その幅を広げ、多くの人々が共に行動することで社会変化を起こすこと」(1-2)であり、次のような特徴もある。
コミュニティ・オーガナイジングでは、たとえ運動そのものの目的を遂げられなくても、活動の過程で人々の間につながりを生み、草の根のリーダーシップを育てることで、コミュニティの力を高めること、より健全な市民社会を創ることができるのです。(50)
著者は、架空のストーリーと国内外の事例を紹介することよってコミュニティ・オーガナイジングの全体像を描き出している。
コミュニティ・オーガナイジングは、次のようなステップに整理できる(55)。
1 共に行動を起こすためのストーリーを語るパブリック・ナラティブ
2 活動の基礎となる人との強い関係を作る関係構築
3 みんなの力が発揮できるようにするチーム構築
4 人々の持つものを創造的に生かして変化を起こす戦略作り
5 たくさんの人と行動し、効果を測定するアクション
コミュニティ・オーガナイジングにおいて、リーダーシップは「不確実な状況の中、他者が目的を達成できるようにする責任を引き受けること」(72)と定義され、「不確実な状況下で他者の力を引き出す」(95)ことが求められる。そして、そのためには次のような「パブリック・ナラティブ」が必要となる。
自身の私のストーリー(Story of Self)を語って聞き手と心でつながり、聞き手と共有する価値観や経験を私たちのストーリー(Story of Us)として語ることで一体感を作り出し、今行動する必要性を示す行動のストーリー(Story of Now)を語ることが必要です。(95)
この三つのストーリーをつなぐのが共有する価値観であり、そこから共通の関心、資源を見出して、関係を構築していく必要がある。
また、強いチームは「意図したゴールの達成」「チームの能力向上」「個人のリーダーシップの成長」という三つの成果を生みだすことができ、そのためには「チームの境界がある」「チームが安定している」「多様性がある」という三つの条件が必要で、チーム立ち上げ時に「共有目的」「明確なノーム(約束)」「相互依存に基づく役割」という三つのことを決定しなければならない(125)。これが強いチームの「トリプルスリー」である。
そして、目指したい社会の実現に近づく変化を起こすためには戦略と戦術が必要となる。戦略とは「どうしたらほしいものを手に入れられるかという『方向性・シナリオ』」(190)であり、良い戦略的ゴールの条件として次の5つのポイントを挙げている(162-3)。
①力を集中できる
②参加したくなる
③持っているもの(資源)を最大限使える
④ものごとを実行する力が増す
⑤同じ問題を抱える他の人たちも真似できる
一方、戦術とは「戦略を具体的に実行する手段」(191)であり、「戦略をもち、それに即して戦術を展開することで、何かに反応するのでなく、主体的に行動することが可能」(192)となる。
さらに、アクションにできるだけ多くの人に参加してもらうためには人の誘い方が重要となる。ここで著者が掲げるのが、「つながり」「緊急性・背景」「コミットメント」「いきおい」の頭文字を取った「ツキコイ」(220)である。
このコミュニティ・オーガナイジングを支えるのが、「心」「頭」「手」のコーチングである(231)。
①動機面(ハート/心)のコーチングは、より前向きに仕事に取り組むために行う。
②戦略面(ヘッド/頭脳)のコーチングは、成果を達成するための資源の使い方を分析、評価できるようにする。
③知識・スキル面(手)のコーチングは、知識やスキルを強化するために行う。
コーチングをお互いにし合うことによって、活動の中でリーダーが育っていく。
「ストーリーが人の心に届けば、それは変化を起こす源になります」(45)と著者は指摘している。まさに本書が変化を起こす源になっており、コミュニティ・オーガナイジングを実践した一冊と言えよう。