管理職デビュー、議会出席デビュー、答弁デビューの経験を語りつつ、これからデビューを迎える職員に向けて書かれた議会答弁の指南書である。各自治体によって制度や慣例で異なるところはあるかもしれないが、本書で説明されている議会の知識や議会答弁のノウハウは、これから管理職になる人たちにとって役立つものであろう。
本書の特色は「チーム力」を強調している点である。例えば、「議会答弁はチーム力で変わる」として、著者はこのように述べる。
会議に限らず、職場での事務打ち合わせや担当業務に関する疑問、新聞・テレビ等の報道への考え方など、幅広く話をする場面を含みます。一見、無駄に見えるこの活動が、ブレない答弁につながり、想定外の質問への答弁に役立ちます。チーム内での議論のなかに、この施策や事業がどうあるべきかといった答弁にもつながる深まりがあるからです。(18)
コロナ禍において、職員同士が顔を直接合わせて話をする機会が減っている今、このような会話の場を確保しようとする取組みは、より一層重要になるであろう。
また、課長にとって必要な「基礎体力」も「傾聴や対話など、「人」を巻き込んだ研鑽を積む」(43)ことで高められると著者は指摘している。そのためには、「何よりも「教えて!」と明るくお願い」(同)できるような関係を築いておかなければならない。つまり、ここでも「チーム力」が重要となる。
もちろん、「チーム力」が全てではなく、個人としての日頃の努力も大切であり、そのノウハウも本書は教えてくれる。まず、効率よく知識を身につけるための第一歩は、パンフレットや冊子といった刊行物などの「住民・利用者目線の資料を使って、知識を増やすこと」(47)である。また、把握しておくべき「必要なデータ」(54)について、その整理の仕方も含めて具体例を示しつつ説明している。そして、議会答弁においては、「国の政策や社会の変化」と「市町村の施策や事業」(60)という二つの視点で整理しておくことで、歴史を学ぶことができるとともに、未来を語ることができるようになると著者は指摘する。そのためには議会の議事録をチェックすることが必要であり、その具体的な活用方法も紹介しており、実務上役立つ内容になっている。
4章の「議会答弁の場面解説」では、「検討」と「研究」の使い分け、決算審査や補正予算、当初予算、さらには条例の改廃や制定時等において、整理・確認すべきポイントが挙げられており、大変参考になる。この章では、本書のもう一つのキーワードである「ストーリー」が大切になる。
管理職になって、議会答弁に不安を抱える職員は、まずはこの本に書かれていることを実践してみることをオススメする。一方、管理職ではない職員も、本書を通じて、「チーム力」と「ストーリー」の重要性を学ぶことができる。また、管理職がどのように考え、管理職をどのようにサポートしたらよいのかを知ることもできる。管理職だけではなく、管理職を支える部下にとっても必読の一冊といえる。