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小紫雅史『市民と行政がタッグを組む!生駒市発!「自治体3.0」のまちづくり』

 奈良県生駒市長が、これからの自治体像、職員像、地域像、そして市民像を描いた一冊。本書の特色は、生駒市の取組事例を紹介するだけではなく、様々な概念を提示することで理念を共有し、実践へと導こうとする姿勢が見えることだ。例えば、本書のタイトルにもなっている「自治体3.0」、多様な働き方・生き方・暮らし方をあらわすDiver「City」、ワークとライフとコミュニティが融合するワーク・ライフ・コミュニティ・ハーモニーがキーワードとして挙げられている。それらの概念が空疎なもので終わることなく、生駒市の実践により具体化されているため、概念で示そうとするものが読者にとってわかりやすく、本書を読むことで一つの未来像を手にすることができる。
 本書が主張するまちづくりの大原則は「市民を単なる「お客様」にするのではなく、市民と行政が「ともに汗をかいてすすめるまちづくり」であり、このようなまちづくりを「自治体3.0」と呼んでいる(16)。「自治体3.0」のまちづくりは、人口減少や少子化を仕方ないと思う(=「自治体1.0」)のではなく、市外から人を呼び込み、市民に満足してもらうことでまちにつなぎとめようとする(=「自治体2.0」)のでもなく、今住んでいる人がより良く、より楽しく生活できるまちづくりを市民と行政が協力して実現していくものとされている。このようなまちづくりの結果として、市外からも人が集まり、人口が増加していくことになるのである。
 市民との協働・協創においては、行政が市民を「利用」し、市民が役所の下請けと化していると批判されることもあるが、本書は協働・協創のそのような負の側面を感じさせない。その理由は、「自治体3.0」のまちづくりを進めるために、「職員の」協創力を高める必要があり、職員の行動力、企画力、説得力の重要性を説いているからだ(156)。
 このように、まちづくりの紹介に留まることなく、職員に求められるスキル、さらには「職員倫理」とも言えるようなものを提示しているのも本書の特色である。例えば、筆者は「自治体3.0」を推進していくために、自治体職員へ次のように説いている。

仕事で忙しい市民の皆さんに、コミュニティを少しだけ意識してもらうための努力も行政の大切な仕事であり、職員も一人の市民としてまちづくりに参加しながら、会社勤めの方から学び、声を拾いながら、市政に活かしたり、まちづくりを具体化することが必要です。(93)

この「少しだけ」という表現から、著者の現実主義的かつ理想主義的姿勢を感じ、私はその著者の姿勢に深く同意する。市民との協働・協創というとき、この「少しだけ」が重要になる。過度な・過剰な協働・協創、コミュニティ意識の形成を求めてはいけない、「少しだけ」という倫理が要請されるのである。
 以上のように、本書を大変興味深く読んだのだが、気になった点が一つある。本書における市民や職員が、「強い」主体を前提していることだ。私は、本書で描かれているような「強い」主体ではなく、「弱い」主体が「弱い」主体のままでも生活できるような社会も考えていく必要があると思っている。もちろん、その「弱い」主体が「強い」主体に変化することはありうるし、その変化を促すような努力も必要であり、それは「自治体3.0」の理念とも重なるものであるが、私はその重なることができない部分にも目を向けていきたい。