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後藤好邦『『知域』に1歩飛び出そう!ネットワーク活動でひろがる公務員ライフ』

 山形市職員で、「東北まちづくりオフサイトミーティング」を発足した後藤好邦さんが、「つながり」をキーワードに、さまざまな事例や自身の活動を交えつつ、これからの公務員の価値・可能性を描いた本。本書のタイトルにもある「知域」について、著者は次のように語る。

知域とは自治体職員が仕事以外のフィールドに飛び出しやすくするために創った造語なのである。それでは知域とはどのような場なのだろうか。実は「知域」には確たる定義はない。文字どおり「知」に関わる場であれば何でも良く、その判断は一人ひとりに委ねられている。自主勉強会のような「知」識を学ぶ場、交流会のような仲間と「知」りあえる場、地域のイベントといった住民の想いを「知」る場など、いろいろな知域が想定されるが、そうした「知」に関わる場を自ら発見し、そのなかから自分の参加しやすい知域にまずはダイブすることを私はすすめている。その勇気ある1歩がきっかけとなり、知域活動の輪が徐々に広がっていけば、最終的には地域を飛び出すことにつながっていく。そうした意味では、ネットワーク活動のきっかけが「知域」にあると考え、本書のはじまりに、この言葉を紹介したというわけである。(5-6)

 ここで重要なことは「知」の多様性であり、「まずはダイブする」という実践力・行動力である。この「知」の多様性が「つながり」を広め、「つながりが広がれば広がるほど可能性が広がる」(45)のだ。
 そして、本書には「まずはダイブする」ことの具体例が描かれており、そのポイントとして、①まずは少人数ではじめること、②身近な目標を立てること、③期日を定めることが挙げられている(95-8)。さらに、「はじめること」に加えて「続けること」の秘訣を説明しつつ、東北まちづくりオフサイトミーティングの成功要因として、①優秀なフォロワーの存在、②活動が身近で刺激的、かつ感動的、③誰もが主役になれる仕掛けづくり、④メンバーそれぞれのスタンスに合わせて参加可能、という4つの要因を取り上げ、地域や組織づくりへの応用可能性を説いている(110-3)。
 このように、具体的な取組みを紹介しつつ、実践のためのポイントをまとめているのが本書の特徴だ。例えば、電子決裁システム導入について、著者は「電子決裁システム導入にあたり最も大事なことは、トップの理解」(160)であり、第2のポイントは「導入時に実施する説明会は部署別に行うこと」(161)、第3に「担当者が電子決裁を導入する意義を感じ、想いを持って事務にあたることである」(同)と述べる。私の経験(電子決裁ではないが)では第2の点が重要で、全庁的な取組みに対し、効率性を重視して全部署にまとめて説明会を開催した結果、それぞれの部署から不平・不満が続出し、また、「やらされている感」も蔓延し、十分な成果を上げることができなかったという事例は少なくない。全庁的な取組みであるからこそ個別の部署への対応が必要になるのだ。
 行動・実践しようとする時に、さまざまな障壁やプレッシャーで立ち止まってしまう公務員は少なくないと思う。そのような時に、まずは一歩を踏み出し、そして「つながり」を通じて続けてみようという勇気と、そのための「知」を与えてくれる一冊である。

『知域』に1歩飛び出そう! ネットワーク活動でひろがる公務員ライフ

『知域』に1歩飛び出そう! ネットワーク活動でひろがる公務員ライフ

  • 作者:後藤 好邦
  • 発売日: 2021/02/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)