yamachanのメモ

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堤直規『教える自分もグンと伸びる!公務員の新人・若手育成の心得』

 『公務員1年目の教科書』や『公務員ホンネの仕事術』等、公務員の働き方に関する著作を多数出版している堤直規さんによる新著は、公務員の育成方法や育成することの意義を解説している。
 本書は、「初めて新人を指導することとなった若手向け」「指導・育成がうまくいかないと悩む職員向け」「指導・育成を受ける新人・若手向け」、そして「自治体の将来を担う若手に向けて」書かれたものである(ⅳ-ⅴ)。このような観点から「人育て」を論じることで、「指導・育成を、若手から中堅への成長全体につなげていく」(136)内容になっており、自治体職員のキャリアデザインについて学ぶこともできる。
 著者は、「人育て」が大事な理由として、「組織のため」「対象である新人・若手のため」「あなた自身のため」という3点を挙げる(5)。また、「人育て」で得られる3つの力について、次のように説明している。

①ポータブルスキルの向上。新人・若手の育成に向かい合えば、自治体職員として役職や経験年数に応じて、どのような知識・スキルを身につけなければいけないのかということを考えざるをえなくなります。教えることによって、それらの知識・能力も確かなものになります。その結果、あなたのスキルは大きく向上します。
②マネジメント能力の向上。指導育成の中で「任せる力」は磨かれて、あなたが管理職等として働く時の大きな力となるでしょう。
③キャリア(仕事と人生)を主体的に築く力の獲得。マネージャーとしてチームで成果を出す役割を負うか、エキスパートとしてある分野の第一人者となるかという大きな岐路に備える上で、とても役立ちます。

このように、具体的な育成方法だけではなく、「人育て」を通じて主体的に成長していき、職員がぶつかる「壁」を乗り越えていくための理論や心得が描かれている。
 本書で特に興味深かった点の一つは、「問題職員」と「エース」に対する育成について書かれている箇所だ。おそらく、この「問題職員」「エース」との向き合い方で悩んでいる職員は少なくない。そして、その悩みを抱えている職員には、教えても成長しない、仕事でミスを頻発する、大きな失敗をするということを、「問題職員」「エース」に問題があると認識している者も多いだろう。本書はこれらのことを指導する職員自身の問題として受け止め、解決方法を解説し、その経験が結果的に自身の成長に繋がることを指摘している。
 このように、コンパクトでありながらも、育成の方法・理論についてわかりやすく、実践的に論じられており、これからの自治体を担っていく職員にぜひ読んでほしい。また、本書には参考文献が多数挙げられており、それらも公務員として働く上で、さらには人間として成長する上で役立つであろう。「仕事と人生を掛け算して豊かに働き生きることができる、それが自治体職員のキャリア(仕事と人生の道筋)の本質」(144)と語る著者の思いが凝縮された一冊と言えよう。