yamachanのメモ

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ボヤン・マンチェフ『世界の他化-ラディカルな美学のために』

 著者であるボヤン・マンチェフは本書について、「ジョルジュ・バタイユについての本ではなく、バタイユを出発点とする本である」(9)と述べる。また、訳者である横田祐美子さんも「バタイユについてのテクストではなく、バタイユから出発して、バタイユとともに、ときにはバタイユに抗して思考を展開するマンチェフ自身の哲学についてのテクストだ」(301)と語る。一方、「ラディカルな美学のために」という本書の副題からは、美学や芸術学の著作であることを連想するであろう。
 このように、『世界の他化』はバタイユに関心がある方や美学に関心がある方がまずは手に取ると思うが、ぜひ政治思想・政治哲学に興味を持つ方も読んでほしい。なぜなら、本書は「政治的なもの」を巡る一冊でもあるからだ。「日本語版への序文」の中で、マンチェフは次のように語る。

『世界の他化』が強調してきたのは、世界の物質についての問い、その変形的な延長と強度の様態の問い…である。これは今日の鍵となる重要な問いだが、何よりもまず主体性の問いの継続と先鋭化として、したがって行為主と力との問いの継続と先鋭化として重要であり、同時にそれは決断や切断や変化という政治的な問いを先鋭化することでもある。(4-5)

他化というアイステーシス的なものが他者の問いへと必然的に開かれるかぎりでのラディカル倫理学。これは、バタイユレヴィナスの見解の対決をとおして、倫理的領野と政治的領野の関係の問いを提起する。(13)

また、マンチェフは「不定形や低い物質といった概念には、存在論的な価値だけでなく、政治的、さらには戦略的な価値もある。すなわち、権力装置を、権威の場を解体すること。物質は権力構造に先立つ抵抗の可能態、純粋な抵抗性であることが明確となるのだ」(112)とも指摘している。これらの議論は、「政治的なもの」に関心を持つ人たちを魅了するものであろう。
 「政治的なもの」について強調してきたが、本書は優れた哲学書である。訳者の横田さんが「よい哲学者とはつねに他の哲学者を論じながら、同時にみずからの哲学を提示する者なのかもしれない」(301)と言っているが、そのような意味からもマンチェフは「よい哲学者」であり、その魅力が本書には凝縮されている。そして、本書のキーワードである「他化」(“altération”)に対する訳注も、本書を哲学書として読む上で参考になる。『世界の他化』の読解を通じて、読者は哲学という実践を学ぶことができるだろう。

哲学の唯一の政治的価値はその完全な非有用性にある。しかしながら、この非有用性は現実化されねばならないのだ。もちろんそれは、世界を変形するためにではなく、変形を変形するために、である。
つまり、最後の哲学者とは、完成させる者ではなく、変形する者なのだ。(50)

「いまや変形の変形が私たちの哲学的、政治的使命となった」(15)というマンチェフの指摘は重要であり、本書をきっかけとして彼の哲学・思想への関心が高まることを期待する。