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宮澤正泰『はじめての自治体会計0からBOOK』

 自治体の会計事務について、イラストを交えつつ、わかりやすく説明した一冊。本書はまず、「会計課の仕事の目的」として次のように述べる。

会計課は、何か直接、住民の福祉に寄与しているわけではありません。会計課は「縁の下の力持ち」-間接的に、「住民の福祉」に寄与しているといえます。住民の福祉を行うために、さまざまな部署でいろいろな業務が行われていますが、この業務を行うために「お金」が必要になります。この各部署の各業務が行われるために必要な「お金」を出納・保管し管理する業務が、会計課の仕事だとまずは思ってください。(13)

 どこの部署に配属されても、事務分掌規則には出てこない、この「仕事の目的」を理解することが自治体職員にとっては重要である。例えば、道路部門の部署であれば、「道路を維持管理・新設すること」が目的ではなく、道路を維持管理・新設することによって「住民の福祉に寄与すること」が目的となる。この「そもそも論」を明記していることが本書の良い点の一つである。
 そして、先程の引用箇所に「住民の福祉」という言葉が出てきており、その根拠法令・条文についても解説している。本書はイラストや具体例を交えてわかりやすさを重視している一方で、このような制度や考え方の根拠法令・条文も記載しており、非常に参考になる。
 私はかつて会計部署ではないが、税の収納部門に配属されたことがあり、「その時にこの本があれば…」と思った箇所がある。それは「PART.3 収入事務のきほんと進め方」、特に収納の手順や収入事例について説明しているところだ。収納部門の実務について、わかりやすくコンパクトに、法令根拠も踏まえて解説している。収納業務に長年携わっている職員でも、理解はしていても説明が難しい内容なので、新人教育・研修に悩んでいる職員にも本書をオススメしたい。
 会計部署の職員にぜひ読んでほしいのが、「庶務の人を思いやる前提で」というところだ(75)。会計部署の職員にとって当たり前のことであっても、各担当課の庶務職員が理解していないことは少なくない。そのことに対して、「そんなことも知らないの」「理解してから持ってきて」と庶務職員を責める会計職員もいる。もちろん、組織として間違いは無い方がよいし、個々の職員は制度を理解しておいた方がよく、また、「間違いが指摘されればそれを直せばいいと思っている」(75)ような体制はよくないことである。しかし、各担当課の職員が会計処理について詳しくなく、その結果として間違いが生じることは、「業務が増え、職員が減らされているどこの自治体でもあること」(同)なので、組織を回していく上では「思いやる」という姿勢が大切になるであろう。
 新年度ともに出納整理期間が始まるこの忙しい時期にこそ、手に取ってほしい一冊だ。

はじめての自治体会計0からBOOK

はじめての自治体会計0からBOOK

  • 作者:宮澤 正泰
  • 発売日: 2020/07/02
  • メディア: 単行本