yamachanのメモ

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堤直規『公務員の「異動」の教科書』

 「異動するのが不安…」。毎年のことながら、この時期には多くの自治体職員が抱える悩み。この悩みを解消し、「うまく異動できる」(3)ためにおススメするのが、堤直規『公務員の「異動」の教科書』である。

 堤氏は、「様々な部署への異動を重ねる中で、いかに経験と実績を積み上げて前へ進んでいけるかが、公務員としてのキャリアアップの本質」(4)であると指摘している。また、「幅広い異動には、組織にとって、①本人の適性を見て適材適所の配置をめざす、②異なる経験を積ませて能力開発を促すという意味」(16)があるとも述べている。このように、個人にとっても、組織にとっても、異動には重要な役割がある。

 異動の重要性と不可避性は認識しつつも、日々の業務に追われているなかで、異動の処理とはなかなか向き合いないもの。そこで、うまく異動するためには、本書で書かれている以下のような「姿勢」と「技術」が必要となる。

・2日間で自分が処理を終えることができない仕事は、すべて引継事項に入れる(32)

・市民・市議会や所管の審議会等からの指摘事項にたいして、検討・対応の約束をしているものは、事務引継書に明記する(36)

・引き継ぐべき文書等は、本当に必要なものだけに絞る(40)

・全員の名前を覚える(45)

・作業等を手伝う、何もなければ自習する(48)

・所管は組織規則を、災害時の役割は地域防災計画を、職員配置は組織表を、予算は歳入歳出予算事項別明細書を、決算は歳入歳出決算書で確認する(55)

・業務分担の説明は、自分の担当だけではなく、他の職員の担当と、それぞれの担当業務の関連性を理解する(56)

・業務の知識を固めるために、自腹を切って最低でも3冊は読み込む(67)

・今後の異動に備える意味でも、日頃から、ミスやトラブルの概要・原因・対応について、A4用紙1枚を程度にまとめ、ファイルに綴じておく(77)

・「鳥の目(全体を捉える視点)」「虫の目(近い所から細かい所を観察する視点)」「魚の目(流れや動きをつかむ視点)」を意識する(85)

・4現主義(①現場主義、②現品主義、③現実主義、④原則主義)で考える(92)

その他、「異動するまでに目を通しておきたい主な例規」(79)、「押さえておきたい基本情報」(88)、「3部署目までに目を通しておきたい主な計画」(103)等も具体的に示されており、大変参考になる。また、法務や政策法務、文書作成や予算要求の実務に関する参考書も紹介されており、これらも役立つであろう。

 そして、堤氏は「よい職場風土をつくる」(174)重要性を指摘し、次のように述べている。

よい職場とは、①まず職場が明るいこと。②次にメンバーがお互いを認め合うこと。③そして、問題を率直に話し合い、努力・貢献を認め合うことという特徴を持っています。そのために、必要なことはごく基本的なことばかりです。あなた自身が明るく振舞い、職場のメンバーに声をかけ、努力・貢献をほめていきましょう。(175)

そう、よい職場づくりのために必要なことは「基本的なこと」であり、本書で書かれている「姿勢」と「技術」を実践すれば、異動を恐れることはない。「良くも悪くも、異動は「新たな職場で頑張れ」「新たな役割を果たせ」という組織からのメッセージ」(185)でもあるのだ。