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蔭山宏『カール・シュミット』、古賀敬太『カール・シュミットとその時代』

 

 蔭山宏『カール・シュミット』は2020年6月に出版されており、「あとがき」においては、新型コロナウィルスの世界的流行について「シュミットのいう例外状況の発生である」(257)という指摘がある。「緊急事態」という言葉が日常に浸透した今、シュミットの思想を理解することは重要なことであり、最近出版された蔭山宏『カール・シュミット』と、古賀敬太『カール・シュミットとその時代』は、シュミットの思想と理論を学び、現代社会の特徴を考えるための格好の書物である。

 『カール・シュミット』の注目すべきところは、1938年を境に「前期シュミット」と「後期シュミット」という区分を設けているところだ。前期シュミットでは、「理論的構築性、組織性、計画性、権力性、決断主義といった特性がはっきりと優位に立って」(12)おり、後期シュミットでは、「前期シュミットが重視していた諸特性による統制の及ばない問題領域への関心が目覚め、ときには秩序形成におけるそれら問題領域の役割を積極的に評価するような新しい傾向が生まれてくる」(12-3)のである。

 そして、この前期シュミットと後期シュミットをつなぐものとして、本書は「技術」「技術的なもの」に注目している。「技術の時代は同時に政治の時代なのである」(50)という指摘は、現代社会を理解する上で、重要なものとなっていくであろう。

 また、現代思想の問題と関連付けられるものとして、ロマン主義の問題について多くの説明を費やしている点も本書の魅力の一つである。そのなかで特に興味深いのは、シュミット的「個人」に対する次のような言及である。

自由主義的個人であれ、ロマン主義的個人であれ、近代的個人主義に対置されるシュミット的「個人」は確固たる個人のようでありながら、そこには特有の<破れ>というべきものがある。それが「例外状況」の問題である。ロマン主義的個人を徹底的に批判したシュミットだが、意外なことに例外状況という破れにおいてロマン主義や同時代のモダニズムと接点をもつようになる。(97)

 このようなシュミットの思想・理論における「破れ」という特徴は、シュミットという人物そのものをあらわしているように思え、そこで注目すべきシュミット本が、古賀敬太『カール・シュミットとその時代』である。

 『カール・シュミットとその時代』は、時代区分を六つに分けており、著者自身が指摘しているように、「必ずしもシュミットの思想の変遷に基づく区分ではない」(5)。また、ハイデガーやケルゼンなどの論争相手の思想・理論も取り上げながら、シュミットの思想・理論を説明しているのも本書の特徴だ。

 そして、シュミットの日記や書簡からシュミットの個人的な行動や内面を描いているところも興味深く、先述した「シュミットという人物そのもの」を理解するうえで参考となる。

彼の初期からナチス時代までの日記を貫いているのは、恐れや不安、自殺衝動であり、scheußlich(ゾッとする)という言葉に象徴される彼の精神的不安定である。(8)

シュミットの日記を読むと、彼の私生活は露骨な反ユダヤ主義的感情や異性に対する異常な性愛など本能的な感情や行動が多くみられ、精神的にもアップダウンが激しく、時折り自殺衝動が見られる。(368)

こうした彼の精神的な特徴、そのまま彼の国家と個人、公と私、機械と精神、外面性と内面性の「両極性」(Polaritӓt)に反映される。彼の思想の特徴を一言でいえば「両極性」である。(同)

ここでいう「不安定性」や「両極性」が、蔭山氏が指摘した「破れ」のようなもので、ここにシュミット思想・理論の特徴があり、「確固たる個人」や「強い主体」とは異なるモデルを提供してくれるものである。

 その他、両著作を読んで興味深かったのは、『カール・シュミット』で前期シュミットと後期シュミットの分岐点となる1938年の著作『ホッブズ国家論におけるリヴァイアサン』が、『カール・シュミットとその時代』においても、次のように取り上げられていることだ。

この書物ほどシュミットの自己分裂、また国家論におけるその反映を示しているものはない。この著作の中にシュミットのヤヌスの顔-一方における無政治的個人主義と他方における国家への献身-がはっきりと現れているのである。(293)

 『ホッブズ国家論におけるリヴァイアサン』は、『カール・シュミット著作集Ⅱ』に『レヴィアタン』として収録されている。「シュミットの中の内的矛盾を象徴した書」(296)ということなので、今回の読書を機に読んでみようと思う。

カール・シュミットとその時代

カール・シュミットとその時代

  • 作者:古賀 敬太
  • 発売日: 2019/04/02
  • メディア: 単行本