yamachanのメモ

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高橋良輔/山崎望編著『時政学への挑戦』

 本書は政治分析における「政治の基礎条件であるはずの時間の忘却」(3)に警鐘を鳴らし、「時政学(Chrono Politics)」を理論的・実証的に探究するものである。そのために、見田宗介真木悠介)や大森荘蔵といった、国際政治学では従来取り上げられることがなかったような人物にも注目し、「近代的な時間構造の変容」「時間資源の非対称性」「時間環境の被拘束性」という3つのアプローチ(13)により、領域横断的な議論を展開していく。
 「時間統治の正統性」(第1章)、「政治の瞬間化と永続化」(第2章)、「時間資源をめぐる正統性と正当性」(第3章)、「責任時間」(第4章)、「時間感覚・時熟(成熟)時間・戦略的資源としての時間」(第5章)、「未来志向型の回帰的時間と過去志向型の回帰的時間」(第6章)といった概念が提示され、政治における時間論の多様性が示される。また、「基地政策」(第7章)、「戦争戦略」(第8章)、「宇宙開発」(第9章)といった分野における時間の意義が取り扱われている点も興味深い。さらに、「リアルタイムの専制」と「政治的時間および自由の枯渇」(第10章)、「線形的な時間・空間認識と原生的な時間・空間認識」(第11章)という論点により、来るべき時政学の可能性が論じられており、広い射程を有する内容となっている。
 そして、時間と政治の関係について、終章での編者の次の指摘は重要である。

時間と政治の関係性は静態的なものではなく、多様で重層的な時間構造と、時間を資源もしくは環境として扱う主体の、両者の関係の動態性こそが、われわれの世界を作っていくことが明らかになりつつある。それ故に動態性をその特徴とする時政学が要請されるのである。(292)

 本書は時政学を学ぶ研究者のためだけにあるのではない。私たちが日常で触れる政治、各種メディアを通じて見る政治、そして時には参加する政治、その際に必要となる「時間」という視座を提供してくれる、市民として生きるために必読の一冊である。