yamachanのメモ

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稲継裕昭/大谷基道『現場のリアルな悩みを解決する!職員減少時代の自治体人事戦略』

 「自治体戦略2040構想研究会」の報告書で示された「半分の職員数でも担うべき機能が発揮される自治体」、本書はこの背景にある人口減少社会における自治体の人事戦略について、具体的な実践事例や取組みを交えて論じている。
 職員・労働力不足への対応としてAIやRPAの導入が唱えられているが、日常業務の中での導入作業は原課職員にとって更なる業務負担となり、さらに経費削減や人員削減を迫られるという状態で疲弊しきっている職場は少なくないだろう。そもそも、「自治体職員数は既に雑巾を絞りきった状態」(10)である。しかし、そのような状況だからこそ、著者が指摘しているように、「現場と人事担当者が一体となって、組織全体として」(24)仕事の進め方や人事制度を考えていく必要がある。
 そして、本書の興味深いところが、この「現場」の悩みから出発し、様々な調査結果や公表資料を参照して問題点を分析し、解決に向けた方向性を示している点である。例えば、多くの職員が悩む時間が勤務について、「職員は少なくなったけど、逆に仕事は増えて、時間外勤務が増えるばかりで嫌になる」という職員の悩みについて、総務省「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査結果(概要)」を取り上げつつ、著者は次のように述べる。

そもそも時間外勤務が増加したのは、一人当たりの業務量が増加したからであった。それを踏まえれば、まず行うべきことは事務事業の見直しである。したがって、まずは優先順位の低い事業の廃止・縮小、正規職員の担うべき業務の見直しなどを徹底的に行うべきであろう。そのようにして業務の絶対量を減らした上で、次に行うべきは業務の効率性を高めること、つまり業務プロセスの見直しである。(51)

この「当たり前」のことが、「組織全体として」認識されていない。そのため、業務プロセスの見直しも、作業に膨大な時間をかけたにもかかわらず成果が伴わない、そのようなことが生じるのである。
 課題解決に向けてヒントとして著者が取り上げているのが、「地方公共団体における今後の人材育成の方策に関する研究会(令和2年度)」の報告書である。そこでは、「人材マネジメント」の視点に立ち、人材育成を進めていく必要性が論じられている。そのためには、「①人材確保、②人材育成、③適正配置・処遇、④職場環境の整備、という4つの要素を有機的に結び付け、職員の持つ能力を最大限に引き出せるよう人事管理を戦略的に行い、組織力向上につなげていく必要がある」(70)。そして、各自治体は、この4つの要素を「人材育成基本方針」に体系的に位置付け、計画的かつ実効的に人材育成を進めていくことが重要となる。この「人材育成基本方針」の重要性を、現場や人事担当者はどれほど認識できているのだろうか。
 また、先に述べたAIやRPAについては、次の指摘が重要である。

AI・RPAの普及により、PCで繰り返し作業をしていたような業務は人間がある必要性が次第に薄れていく。それによってスラック(余力)を、本来、人間でないとできない、相談業務や訪問業務など、住民との接触へとシフトしていく必要がある。その際に必要となるコミュニケーション能力や調整能力は、OJTを中心に開発していく必要がある。(188)

 今の自治体で起こっていることは、「AI・RPA推進派」と「コミュニケーション・調整能力重視派」との分裂ではないだろうか。AI・RPA推進派は「コミュニケーションや調整といったノイズを、AI・RPAといった技術を駆使して省略化したい」と考え、コミュニケーション・調整能力重視派は「機械化が進むなかでこそ自分たちの能力が求められるから、自身はAI・RPAに取り組む必要はない」と考えている。このような状況では、職員・職場の分断が生じ、結果として自治体の変革は不十分なものとなるであろう。本書が論じているように、今こそ組織全体で人事戦略に取り組む必要があると言えよう。