yamachanのメモ

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秋田将人『誰も教えてくれなかった!自治体管理職の鉄則』

 『残業ゼロで結果を出す 公務員の仕事のルール』、『ストレスゼロで成果を上げる 公務員の係長のルール』等の著者である秋田将人さんによる学陽書房からの待望の新著である。学陽書房が出版している秋田さんのどの著作も、実務に直結して役立つものが多い。管理職をテーマとした本書も、「管理職として必要な知識や技術、そして処世術なども含めて、この一冊に詰め込んだ」(3)と著者自身が述べているように、実務で必要な情報が網羅されていると言ってよい。そして、『ストレスゼロで成果を上げる 公務員の係長のルール』が出版されたのが2013年、この本の読者で課長となる、または課長になった職員も少なくないだろう。そのような読書にとっては、まさに本書は待望の書である。
 タイトルに「管理職の鉄則」とあるが、管理職になってから本書を読むのではなく、管理職になる前に読んでおいた方がよい。なぜなら、「昇任前後の行動で「成果の8割」が決まる」(12)からである。この「行動」について、具体的な内容を示してくれている。例えば、前任課長へ聞くべき質問、課長レクの方法、挨拶回りの手順等々、多くの職員が実務で悩むことを詳細に説明している。
 本書の特徴の一つは、「トラブル対応」を重視していることである。トラブルが発生した場合、「①住民、②上司、③議会、④職員という4つの視点」(102)で考えること、このバランスが重要となる。このような基本的な姿勢を説明した上で、パターン別の議員対応や事務ミスが起こった際の対応手順、職員の不祥事への対応等について、具体的にわかりやすく説明している。ここで特に注目すべきなのは、「「課長不在」でも問題ない組織体制を構築する」(88)ということだ。これは個人の実感であるが、課長になる「優秀な」職員ほど、「必要とされる職員」であろうとして、自分が不在でも組織が機能することを恐れることがある。しかし、「課長がいないと機能しない組織というのは、組織として未成熟」(88)である。そのような組織の具体例を見てみよう。

①課長が部下の意見を聞かず、強権的な運営をしている。
②業務が各職員に細分化されており、課長が指示しないと連携しない
③職員が「課長の業務は、自分には関係ない」と思っている。(88)

まさに、「優秀な」課長のもとで起こり得る状況である。このような組織で重要なことは「適切な権原の移譲」(89)である。本書を読めば、管理職として適切に権原を移譲することの重要性とその方法を学ぶことができる。
 そして、「大人の発達障害」への対応について言及していることも本書の特徴の一つである。先述した「優秀な」職員ほど、大人の発達障害に気づきづらく、気づいたとしても適切に対応できないことが多い。大人の発達障害が疑われる場合には、まずは人事課に相談し、アドバイスを受けることが重要である。発達障害に対する一定の知識とその対応を知っておくだけで、職員に対する向き合い方が変わり、また、「一歩引いて物を考える余裕も出てくる」(177)のである。この「一歩引く」距離感を持つこともまた、管理職に必要な技術である。
 秋田さんは「管理職は「孤独」であっても「孤立」はするな」(164)と呼びかける。孤立を避けるためには「部下や他の管理職との連携が重要」(165)となる。また、本書が出版された今、心強い「武器」を手にしたのだから、管理職は孤独を恐れることもない。「管理職の世界には、泥臭い人間関係がある」(159)が、この世界との向き合い方、距離のとり方も学ぶことができる、必読の一冊である。