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志村高史『公務員のかんたんデータ活用術』

 本書はタイトルからも推察できるように、地方公務員として必要なデータ活用力について論じている。しかし、本書の特徴は、データを活用するためのPCの操作方法や数値の扱い方のみ紹介するのではなく、「データ」をテーマとして組織のあり方や仕事との向き合い方についても論じている。
例えば、個人のデータ力を活かすためには、組織のデータ力も高める必要があり、そのためには次のことに注意しなければならない(18-9)。

①組織風土を作る:データ分析が組織内の当たり前になっている
②データを共有する:全庁的・横断的に取りまとめ、定期的にデータ更新を行い、いつでも職員が閲覧できるようにする
③データ活用には時間がかかる:従来とは異なるタイムマネジメントを行う必要がある
ブラックボックスを作らない:業務を委託する場合は、必ず使用されているデータも受け取る

 また、著者は、「地理」や「歴史」などの数値データ以外の重要性について論じている。例えば、小学校の数は明治時代からの歴史があり、学校の統廃合は数字データだけでは一筋縄にはいかないことを指摘している。この指摘は、数値データが注目視される現在においてこそ特に重要で、職員から職員へ地域の歴史を引き継いでいく方法も考えていく必要がある。
 さらに、定性的なデータについても「数値データに表れてこない改善のヒントが眠っている場合」(123)がある。例えば、「空き家・店舗を減少させるための家賃補助制度」では、「制度を利用した方」、「利用を検討するために相談には来たが、最終的には利用しなかったという方」という「現場の声」が、大切で参考となる定性的なデータとなる(123)。
 データ分析に関しては、「知識不足」「パソコンの処理能力不足」「予算不足」などの「不足」が問題となる(110)。しかし、これらの問題を解決する方法はあり、その一つが「学」や「民」との連携であると著者は指摘している。この連携を活かすためにも、「自治体が持つデータは、より良い社会を作るための「公共の財産」という意識」(111)を職員が持つことが重要となる。
 数値のデータ活用を苦手とする職員にとっては教科書となり、得意とする職員にとっては数値データ以外の視点を持つことの大切さを学ぶ材料となる一冊。また、公務員が作成する資料を読み解くという観点からは、市民のための民主主義の教科書とも言えるだろう。