yamachanのメモ

日々の雑感や文献のメモ等

今村寛『「対話」で変える公務員の仕事-自治体職員の「対話力」が未来を拓く』

 「みんなたこつぼのなかにいる」(30)-著者のこの言葉にうなずかざるを得ないという人も少なくないだろう。この「「分担」による「分断」」(131)を解消し、「一つの目的のために一緒に物事をする」という「連携」(131)が、今の公務員には必要とされている。そこで鍵となるのが「対話」である。
 著者は、「対話」を通じて「「話す」こと」(50)と「「聴く」こと」(53)という二つの力を伸ばすことができ、この二つの力の相乗効果によって、互いにわかりあい、認め合うという関係性を構築することができたと語る。その結果として、「立場や環境が違う他者が理解しあい共感しあうことができる、心理的安全性の高い社会を実現すること」(55)ができる。
 重要なことは、「対話」は物事を決めるための道具ではなく、物事を決める上で、「納得感や当事者意識を持つプロセス」(74)であるということだ。つまり、「「決める」ことは目的ではなく、決まったことに従い物事を動かすための方法でしかない」(74)のである。
 また、「対話」は「意味のない「雑談」と、物事を決めるための「議論」との中間点にあると著者は指摘する。このような「対話」が果たす役割には、「情報の共有」(100)と「立場の共有」(104)がある。そして、「情報の共有」と「立場の共有」の前段においては、自分たちの議論によって導き出す結論は、できるだけ多くの人が納得し、潔く従うような結論であってほしいというゴールイメージを共有しておく必要がある。
 さらに、「対話」とは「倫理観の問題」であり、「より効率的、効果的に目的を達成する手段として役にたつかどうかという尺度で論じる筋合いのものではない」(89)として、次のように説明されている。

「対話は本来、互いの人格に優劣がないものと認めあい、その意見、主張にも優劣がないという前提で先入観を持たずに拝聴しあう、人として当然に行うべき倫理的なふるまいです。何かの役に立つかどうかで「対話」と必要性や有用性を判断すべきものではなく、役に立たないから、忙しいから、実りがなさそうだからと言って、敬愛の念を持って相手を受容することを怠ることはそもそも人として許されないのです。(90-1)

 著者も指摘しているように、「論理的に物事を考え、政策を立案し、実践し、検証していくという」「論理的思考」(119)が、自治体職員にとって必要な能力の筆頭であると思っている人は少なくないだろう。しかし、「市民の声に耳を傾け、その立場に寄り添いつつ、多様な立場の意見に向き合い、それらを合意へと統合していく調整力」、つまり「対話力」(119-20)こそが重要となる。
 では、「対話」を実践するために、何から始めればよいのか。著者は「まず、私たち自治体職員が勇気を持って自己を開示しましょう」(149)と呼びかける。「私たち自治体職員が自らを「開く」ことは相手の存在を「許す」という宣言でもある」(150)と。

 本書は「対話」の「ノウハウ本」(154)ではないかもしれないが、「対話」の意味を考え、「対話」に向けた勇気ある一歩を踏み出すための実践の書である。「対話」は不要で、「論理的思考」によって決定・決断し、効果的・効率的に物事を進めることができると考えている職員にも手にして欲しい一冊である。