yamachanのメモ

日々の雑感や文献のメモ等

マイケル・フリーデン『リベラリズムとは何か』

 フリーデンは、リベラリズムを「複数の声からなる複合体」(7)と表現している。この複数の声に耳を傾けるために、次のような「歴史的地層」(71)に注目している。

リベラリズムの時間的な層
1.個人の権利を保護し、政府の抑圧がないところで人びとが生活できるような空間を確保することを目的とする権力抑制の理論
2.財の相互交換から個人が利益を得ることを可能にする、経済的相互作用と自由市場の理論
3.個人が他者に危害を加えないかぎりで、自分の潜在能力や能力を発展させることを可能にすることを目指す、長期的な人間の進歩に関する理論
4.個人が自由と繁栄の両方を獲得するのに必要な、相互依存と国家管理的福祉に関する理論
5.集団の生活スタイルや信念の多様性を承認し、多元的で寛容な社会を目指す理論
(31)

著者は、これら5つ層の相互関係に目を向け、リベラリズムの複雑さや多様さを描いている。
 そして、形態学アプローチ*1によって、リベラリズムの中核となる7つの概念―自由・合理性・個性・進歩・社会性・一般的利益・制限されたアカウンタビリティを負う権力―を見出している。
 リベラリズムにおいて、これらの概念はそれぞれ重要性が異なると同時に、それぞれ複数の意味を持っており、ここからリベラリズムの柔軟性と適応性という特徴が導き出される。形態学的アプローチにより、「リベラリズムがとりうる可能性の地図」(128)が描かれるのだ。
 また、このような多様性と複雑性を描くことで、リベラリズムが行き詰る背景も見えてくる。つまり、「自らの中核的な価値や概念の一部だけを、他の価値や概念を顧慮せずに極端な仕方で追求する」(219)ことにより、リベラリズムは堕落していくのである。このような観点からすると、「ネオリベラル達は、二一世紀のリベラリズムのまさしく中心に位置すべき最低限の要素をそなえていない」(197)ことになる。
 最後に、著者はリベラリズムの情緒的側面についてこう述べている。

リベラリズムは理性だけでなく想像力や社会的感情とも関係する。リベラリズムの大きな強みの一つがこの点にあると、リベラル達は信じている。つまり、リベラリズムにある合理的な思想が-最善の場合には-情熱とコミットメントを呼び起こすというわけである。(220-1)

リベラリズムは、この情熱とコミットメントを通じた感情的実践の事実性ともにある。リベラリズムの歴史を学びつつ、リベラリズムの現在と未来を見据える上で必読の一冊といえよう。

 

*1:形態学アプローチについては、訳者の一人である寺尾範野氏の「イデオロギー研究は「政治における正しさ」について何をいいうるか-マイケル・フリーデンの諸研究の検討を通して」(田畑真一・田畑慎太郎・山本圭編著『政治において正しいとはどういうことか』所収)を参照。