yamachanのメモ

日々の雑感や文献のメモ等

グレアム・ハーマン『思弁的実在論入門』

 思弁的実在論の潮流の原点とも言うべき2007年のゴールドスミス・ワークショップの登壇者の一人であるグレアム・ハーマンが、自身とその他の登壇者(レイ・ブラシエ、イアン・ハルミトン・グラント、カンタン・メイヤスー)の思想を章ごとに解説している。各章では、それぞれの思想家のワークショップにおける発表内容、主著、最近の思想的発展を解説しており(自身の立場である対象指向存在論を扱った第三章のみ構成が異なる)、分かりやすい構成となっている。
 結論においては、本書で取り上げた4名の思想家を、「科学/形而上学」の軸と「二元論/一元論」(解説者の言葉では「二世界論/一世界論」)の軸という関係図式で整理している。前者の軸では、ブラシエとメイヤスーが科学の側、グラントと対象指向存在論形而上学の側に配置される。後者の軸では、対象指向存在論とブラシエが二元論、グラントとメイヤスーが一元論に配置される。
 それぞれの思想家を単に紹介するのではなく、これらの軸を設定するのは、「いまやその(始めのSRのグループの)メンバーの何人かは哲学的に、さらに個人的にも激しくいがみ合っている」(8)にもかかわらず、「思弁的実在論なんてものが本当にあるのか。それは何か新しいものなのだろうか」という問いに対して、はっきりと「はい」と答えるためであろう(11)。つまり、設定された軸は「差異」を示すものでありつつも、それぞれの思想がそれぞれの仕方で「実在論」であり「思弁的」であるということ示すものとなっている。この思弁的実在論と名指される思想の「それぞれ」性の意義については、上尾真道さんによる訳者あとがきの次の指摘が参考になる。

思弁的実在論の挑戦とは、この一般化した主人的人間の相貌を砂上の絵のように掻き消しながら、科学技術とともにあるこの世界の(そしておそらくまた人間の)、よりリアルな顔つきを引き出そうとする試みなのだと。四者四様の哲学は、こうした状況にそれぞれの緊張感を保ちながら、それぞれに異なる出口を描き出そうとするものなのだ。さて、このばらつきこそは、この試みが今後いっそうの力強さで取り組まれるにあたっての領野の広さを示していよう。(279)

そう、ハーマン自身が主張しているように、「立場の多様性はいつも、思弁的実在論の最大の強みであった」(270)ということだ。私のような哲学・思想の素人にとって、一つの思想が持つ多様性は、その思想を不透明に、理解しづらいものとすることが多いが、本書はその理解のための、そして「さらに先へと進んで」(273)いくための絶好の入門書である。

思弁的実在論入門

思弁的実在論入門