yamachanのメモ

日々の雑感や文献のメモ等

2021-01-01から1年間の記事一覧

川瀬和也『全体論と一元論-ヘーゲル哲学体系の核心』

「全体論と一元論」というテーマはもちろん、「ヘーゲル哲学体系の核心」という副題にも関心を持つ読者は少なくないだろう。決して分厚いわけではないこの研究書で、どのようにして「ヘーゲル哲学体系の核心」へ迫るのか。著者の川瀬和也さんは、ヘーゲル『…

小松詩織『小松詩織が教える 司法試験・予備試験 合格のベストプラクティス』

様々な活動をしながら大学在学中に司法試験予備試験に合格、翌年司法試験に一発合格をしたという実績を持つ、小松詩織さんによる勉強法が描かれた一冊。短答対策、論文対策、論文答案作成、予備試験口述対策、それぞれの「ベストプラクティス」が説明されて…

小泉義之・立木康介編『フーコー研究』

「集大成にして最前線」と帯文にあるように、フーコー研究者に留まらない総勢30名の執筆者が、フーコーの思想を多角的・総合的に論じた圧巻の一冊である。 「Ⅰ 安全/科学/セクシュアリティ」、「Ⅱ 啓蒙/批判/主体」、「Ⅲ 言語/文学/芸術」、「Ⅳ 狂気/…

金井利之『コロナ対策禍の国と自治体-災害行政の迷走と閉塞』

新型コロナウイルス感染症対策において地方自治体に注目が集まっている中、コロナ禍での自治体の動向や今後のあり方を問う、重要な一冊が出版された。 本書の視点は、タイトルが示しているように、「コロナ対策禍」である。「コロナ対策禍」とは、政策課題と…

島田正樹『自分の楽しさは自分でつくる!公務員の働き方デザイン』

本書は、公務員が「自分らしく主体的に働く」(2)ために役立つ行動や考え方を、「仕事」「人間関係」「心のあり方」「プライベート時間」「キャリア」という5つの「デザイン」の観点から論じている。「全体の奉仕者である公務員が自分らしく主体的に働くに…

白川晋太郎『ブランダム 推論主義の哲学-プラグマティズムの新展開』

“ Making It Explicit ” や “ A Sprit of Trust ” など、読みたくてもなかなか手を出せないでいたロバート・ブランダムに関する待望の入門書が出版された。「ブランダムの哲学とは、「分析哲学」「プラグマティズム」「ドイツ観念論」を統合した言語哲学」(…

松元雅和『公共の利益とは何か-公と私をつなぐ政治学』

タイトルにもあるように、本書のキーワードは「公共の利益」であり、政治学の基礎的概念(「政治」「公共の利益」「自由主義」「民主主義」「権力分立」)と、具体的な政治制度や政治過程(「議会」「執政部」「官僚」「選挙」「政党」「団体」)を取り上げ…

堤直規『教える自分もグンと伸びる!公務員の新人・若手育成の心得』

『公務員1年目の教科書』や『公務員ホンネの仕事術』等、公務員の働き方に関する著作を多数出版している堤直規さんによる新著は、公務員の育成方法や育成することの意義を解説している。 本書は、「初めて新人を指導することとなった若手向け」「指導・育成…

宮本太郎『貧困・介護・育児の政治-ベーシックアセットの福祉国家へ』

民主党政権の「有識者検討会」座長をつとめたり、「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」部会長をつとめる等、政治過程・政策形成の現場でも活動されてきた宮本太郎氏が、この約30年の福祉政治を分析し、新たなる構想を描いた良書。 タイトルにも…

小田順子『令和時代の公用文書き方のルール-70年ぶりの大改定に対応』

公用文のルールである「公用文作成の要領(昭和27年内閣官房長官依命通知別紙)」の見直しについて検討が行われ、「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告)」が公表された。本書はこの報告書に沿って公用文の書き方を解説している。 第1章 公用文の分類…

野口雅弘/山本圭/髙山裕二編著『よくわかる政治思想』

「信頼できる書き手による「道案内」となる本書」(ⅰ)と自負するように、96項目にわたり、各テーマに詳しい62名の研究者が執筆している優れた政治思想のテキストである。本書の構成は、「政治思想とは何か」「政治思想の方法」という理論・方法論から始まり…

百木漠『嘘と政治-ポスト真実とアーレントの思想』

百木漠『嘘と政治-ポスト真実とアーレントの思想』は、タイトルが示すように、森友学園問題や加計学園問題、自衛隊の日報破棄・隠蔽問題等といった、近年の「嘘と政治」を巡る状況について、ハンナ・アーレントの思想を手がかりに考察したものである。『ア…

吉川貴代『はじめてでも乗り切れる!公務員の議会答弁ガイド』

管理職デビュー、議会出席デビュー、答弁デビューの経験を語りつつ、これからデビューを迎える職員に向けて書かれた議会答弁の指南書である。各自治体によって制度や慣例で異なるところはあるかもしれないが、本書で説明されている議会の知識や議会答弁のノ…

ショーペンハウアーとデリダの哲学(『倫理学の二つの根本問題』『絵画における真理』)

〇『ショーペンハウアー全集9』 将来のいつか、わたしの著作が人びとに読まれるという時代が訪れるなら、わたしの哲学とはいわば百の市門をもつテーベの都であることが明らかになるであろう。いずれの方角からも入場が可能であり、どの門を通ってもまっすぐ…

高橋陽一郎『藝術としての哲学-ショーペンハウアー哲学における矛盾の意味』

ショーペンハウアー哲学の研究書として、そして「藝術としての哲学」に関する研究書として優れた一冊だ。著者の高橋陽一郎氏は各方面で、ショーペンハウアーの意志論や藝術論、そして遺稿の哲学等を論じてきたが、これらの研究の成果がこの一冊で一つの作品…

林誠『my公務員BOOK「係長」』

所沢市職員であり、数多くの書籍を出版している林誠さんの新著は、係長に求められる役割、スキル、心構えを説く本だ。必要に応じて記録やメモができるようになっており、自分だけのノートとして活用できる仕組みになっている。 本書を読み始めて印象的なこと…

訴訟代理権消滅通知書について(民事訴訟法)

〇民事訴訟法 (法定代理権の消滅の通知)第三十六条 法定代理権の消滅は、本人又は代理人から相手方に通知しなければ、その効力を生じない。2 前項の規定は、選定当事者の選定の取消し及び変更について準用する。 →よって、裁判所及び相手方へ訴訟代理権消…

後藤好邦『『知域』に1歩飛び出そう!ネットワーク活動でひろがる公務員ライフ』

山形市職員で、「東北まちづくりオフサイトミーティング」を発足した後藤好邦さんが、「つながり」をキーワードに、さまざまな事例や自身の活動を交えつつ、これからの公務員の価値・可能性を描いた本。本書のタイトルにもある「知域」について、著者は次の…

カントとショーペンハウアーの「感性」「悟性」「理性」(『意志と表象としての世界』訳者注)

カントは感性を直観の能力とし、悟性を思惟の能力としたが、ショーペンハウアーは悟性を直観の能力と考えている。カントによれば、悟性は人間が概念を用いて思惟する能力のことであるが、ショーペンハウアーによれば、概念を用いる能力はもっぱら理性のみで…

指定代理人について(鈴木潔『強制する法務・争う法務』)

自治体の場合には、自治体の長や公営企業の管理者などが訴訟行為の代表機関となる。実際の訴訟遂行を担うのは、次のような訴訟代理人である。①指定代理人(自治法153条1項に基づき地方公共団体の職員に庁の権限に基づく事務を代理させる)、②弁護士(民訴法5…

宮澤正泰『はじめての自治体会計0からBOOK』

自治体の会計事務について、イラストを交えつつ、わかりやすく説明した一冊。本書はまず、「会計課の仕事の目的」として次のように述べる。 会計課は、何か直接、住民の福祉に寄与しているわけではありません。会計課は「縁の下の力持ち」-間接的に、「住民…

鎌田康男・齋藤智志・高橋陽一郎・臼木悦生[訳著]『ショーペンハウアー哲学の再構築』

『充足根拠律の四方向に分岐した根について』(第一版)訳解 ・意識の法則 <われわれの意識>は感性、悟性または理性として現れる。この意識は、<主観>と<客観>とに分かれており、それ以外の要素は含まれない。<主観にとっての客観>であるということ…

「超越論的」という訳語について

「Transzendental」に「超越論的」という訳語を与えたのは『「いき」の構造』(一九三〇年)の哲学者九鬼周造(一八八八-一九四一)であるが、たんに「超越」ではなく、「論」が付加されているところに九鬼の工夫があった。つまり、中世哲学や講壇哲学の場…

カント『永遠平和のために』読書会メモ

ソーシャルディア主催の読書会に参加。以下、議論になったことも含め、今後の勉強用にメモ。 ・カントの軍事思想について A=兵役は職業軍人が中心的に担うが(常備軍制)、国民全体の義務でもある(徴兵制)。B=兵役は職業軍人が担うものであり(常備軍制)…

寺田俊郎『どうすれば戦争はなくなるのか』

寺田俊郎『どうすれば戦争はなくなるのか』は、カント『永遠平和のために』の読解を通じて、カント哲学とその現代的意味を問うものである。著者は、『永遠平和のために』を読むことで、カントの実践哲学と歴史哲学、さらにはカント哲学全体のエッセンスに触…

カント『永遠平和のために』

序章(148) 第一章 国家間に永遠の平和をもたらすための六項目の予備条項(149) 一 将来の戦争の原因を含む平和条約は、そもそも平和条約とみなしてはならない。(149) ニ 独立して存続している国は、その大小を問わず、継承、交換、売却、贈与などの方法…

マーティン・ジェイ、日暮雅夫共編『アメリカ批判理論-新自由主義への応答』

マーティン・ジェイ、日暮雅夫共編『アメリカ批判理論-新自由主義への応答』は、現代において批判の対象とはなるもののその実態を捉えがたい「新自由主義」について、アメリカ批判理論の立場から論じるものだ。本書の特徴を、編者の一人である日暮雅夫は、①…

山本圭『現代民主主義-指導者論から熟議、ポピュリズムまで』

山本圭『現代民主主義-指導者論から熟議、ポピュリズムまで』は、多様な観点から「政治」、そして「民主主義」を問うてきた著者が、「民主主義はどのように語られ、理論化されてきた」(ⅳ)のかを論じた、コンパクトにして濃厚な内容になっている。まずは序…

批評誌『夜航Ⅴ』特集:ジジェク以降のドイツ観念論へ

東浩紀はスラヴォイ・ジジェクについて、「ラカン派精神分析の見事な整理(理論的側面)」と「その図式を具体的な批評に応用する際のフットワークの軽さと芸の巧みさ(実践的側面)」から評価されていると論じていた*1。『夜航Ⅴ』の特集「ジジェク以降のドイ…

高橋良輔/山崎望編著『時政学への挑戦』

本書は政治分析における「政治の基礎条件であるはずの時間の忘却」(3)に警鐘を鳴らし、「時政学(Chrono Politics)」を理論的・実証的に探究するものである。そのために、見田宗介(真木悠介)や大森荘蔵といった、国際政治学では従来取り上げられること…