yamachanのメモ

日々の雑感や文献のメモ等

高橋陽一郎『藝術としての哲学-ショーペンハウアー哲学における矛盾の意味』

ショーペンハウアー哲学の研究書として、そして「藝術としての哲学」に関する研究書として優れた一冊だ。著者の高橋陽一郎氏は各方面で、ショーペンハウアーの意志論や藝術論、そして遺稿の哲学等を論じてきたが、これらの研究の成果がこの一冊で一つの作品…

林誠『my公務員BOOK「係長」』

所沢市職員であり、数多くの書籍を出版している林誠さんの新著は、係長に求められる役割、スキル、心構えを説く本だ。必要に応じて記録やメモができるようになっており、自分だけのノートとして活用できる仕組みになっている。 本書を読み始めて印象的なこと…

訴訟代理権消滅通知書について(民事訴訟法)

〇民事訴訟法 (法定代理権の消滅の通知)第三十六条 法定代理権の消滅は、本人又は代理人から相手方に通知しなければ、その効力を生じない。2 前項の規定は、選定当事者の選定の取消し及び変更について準用する。 →よって、裁判所及び相手方へ訴訟代理権消…

後藤好邦『『知域』に1歩飛び出そう!ネットワーク活動でひろがる公務員ライフ』

山形市職員で、「東北まちづくりオフサイトミーティング」を発足した後藤好邦さんが、「つながり」をキーワードに、さまざまな事例や自身の活動を交えつつ、これからの公務員の価値・可能性を描いた本。本書のタイトルにもある「知域」について、著者は次の…

カントとショーペンハウアーの「感性」「悟性」「理性」(『意志と表象としての世界』訳者注)

カントは感性を直観の能力とし、悟性を思惟の能力としたが、ショーペンハウアーは悟性を直観の能力と考えている。カントによれば、悟性は人間が概念を用いて思惟する能力のことであるが、ショーペンハウアーによれば、概念を用いる能力はもっぱら理性のみで…

指定代理人について(鈴木潔『強制する法務・争う法務』)

自治体の場合には、自治体の長や公営企業の管理者などが訴訟行為の代表機関となる。実際の訴訟遂行を担うのは、次のような訴訟代理人である。①指定代理人(自治法153条1項に基づき地方公共団体の職員に庁の権限に基づく事務を代理させる)、②弁護士(民訴法5…

宮澤正泰『はじめての自治体会計0からBOOK』

自治体の会計事務について、イラストを交えつつ、わかりやすく説明した一冊。本書はまず、「会計課の仕事の目的」として次のように述べる。 会計課は、何か直接、住民の福祉に寄与しているわけではありません。会計課は「縁の下の力持ち」-間接的に、「住民…

鎌田康男・齋藤智志・高橋陽一郎・臼木悦生[訳著]『ショーペンハウアー哲学の再構築』

『充足根拠律の四方向に分岐した根について』(第一版)訳解 ・意識の法則 <われわれの意識>は感性、悟性または理性として現れる。この意識は、<主観>と<客観>とに分かれており、それ以外の要素は含まれない。<主観にとっての客観>であるということ…

「超越論的」という訳語について

「Transzendental」に「超越論的」という訳語を与えたのは『「いき」の構造』(一九三〇年)の哲学者九鬼周造(一八八八-一九四一)であるが、たんに「超越」ではなく、「論」が付加されているところに九鬼の工夫があった。つまり、中世哲学や講壇哲学の場…

カント『永遠平和のために』読書会メモ

ソーシャルディア主催の読書会に参加。以下、議論になったことも含め、今後の勉強用にメモ。 ・カントの軍事思想について A=兵役は職業軍人が中心的に担うが(常備軍制)、国民全体の義務でもある(徴兵制)。B=兵役は職業軍人が担うものであり(常備軍制)…

寺田俊郎『どうすれば戦争はなくなるのか』

寺田俊郎『どうすれば戦争はなくなるのか』は、カント『永遠平和のために』の読解を通じて、カント哲学とその現代的意味を問うものである。著者は、『永遠平和のために』を読むことで、カントの実践哲学と歴史哲学、さらにはカント哲学全体のエッセンスに触…

カント『永遠平和のために』

序章(148) 第一章 国家間に永遠の平和をもたらすための六項目の予備条項(149) 一 将来の戦争の原因を含む平和条約は、そもそも平和条約とみなしてはならない。(149) ニ 独立して存続している国は、その大小を問わず、継承、交換、売却、贈与などの方法…

マーティン・ジェイ、日暮雅夫共編『アメリカ批判理論-新自由主義への応答』

マーティン・ジェイ、日暮雅夫共編『アメリカ批判理論-新自由主義への応答』は、現代において批判の対象とはなるもののその実態を捉えがたい「新自由主義」について、アメリカ批判理論の立場から論じるものだ。本書の特徴を、編者の一人である日暮雅夫は、①…

山本圭『現代民主主義-指導者論から熟議、ポピュリズムまで』

山本圭『現代民主主義-指導者論から熟議、ポピュリズムまで』は、多様な観点から「政治」、そして「民主主義」を問うてきた著者が、「民主主義はどのように語られ、理論化されてきた」(ⅳ)のかを論じた、コンパクトにして濃厚な内容になっている。まずは序…

批評誌『夜航Ⅴ』特集:ジジェク以降のドイツ観念論へ

東浩紀はスラヴォイ・ジジェクについて、「ラカン派精神分析の見事な整理(理論的側面)」と「その図式を具体的な批評に応用する際のフットワークの軽さと芸の巧みさ(実践的側面)」から評価されていると論じていた*1。『夜航Ⅴ』の特集「ジジェク以降のドイ…

高橋良輔/山崎望編著『時政学への挑戦』

本書は政治分析における「政治の基礎条件であるはずの時間の忘却」(3)に警鐘を鳴らし、「時政学(Chrono Politics)」を理論的・実証的に探究するものである。そのために、見田宗介(真木悠介)や大森荘蔵といった、国際政治学では従来取り上げられること…

東浩紀『ゲンロン戦記』

日本を代表する思想家の一人、東浩紀氏が書いた「批評の本でも哲学の本でもない」、「私小説あるいは自伝」(266)のような一冊だ。具体的には、2010年に創業されたゲンロンとともに歩んだ10年の軌跡を振り返ったもの。しかし、「哲学はあらゆる場所に宿りま…

定野司『公務員の調整術』

仕事をする上で、「なぜこのような調整が必要なのか?」と批判の対象ともなる「調整」について論じた一冊。調整術を理論的に説明した1章から3章、①組織(庁内)における調整、②議会との調整、③地域との調整、④国や他自治体などの関係機関との調整という4つの…

田村哲樹・加藤哲理編『ハーバーマスを読む』

政治学や社会学、そして哲学の書棚にも置かれるほどに多様な領域に多大な影響を与え、現代を代表する思想家の一人であるユルゲン・ハーバーマスの全貌に迫る一冊だ。第Ⅰ部では討議倫理学や公共圏、法・憲法といったテーマ・トピックに即して、第Ⅱ部ではハー…

待鳥聡史『政治改革再考』

『政治改革再考』というタイトルからは、具体的な「制度」に着目した内容を想像するが、実際はそうではない。制度内容や制度変遷はもちろんのこと、その背景にあるアイディアについても分析されており、「政治改革の全体像」(5)が描かれているのが本書の魅…

山口尚『哲学トレーニングブック』

「哲学書を読む哲学書」であり「<読むこと>を徹底的に行う」(9)とする本書は、「書物一般」ではなく、「哲学書」を読むことの特異性にフォーカスを当てた良書だ。「本を読む本」や「本の読み方」と称する書物はたくさんあるが、この本は「哲学書」を「読…

リー・マッキンタイア『ポストトゥルース』

2016年、ブレグジット投票とアメリカ大統領選挙を背景に、オックスフォード大学出版局辞典部門が今年の一語にノミネートした「ポストトゥルース」という現象が、世界中の注目を集めた。著者のマッキンタイアは、ポストトゥルースとは「何か」を問うとともに…

井奥陽子『バウムガルテンの美学-図像と認識の修辞学』

美しい装丁が印象的な本書で扱われているのはバウムガルテン、名前こそ知っているが、「どこか顔が見えないところがある」(ⅳ)人物だ。そして、本書のテーマである「美学」についても、「バウムガルテンの空白のイメージが象徴しているように、学科としての…

ロバート・ブランダム『プラグマティズムはどこから来て、どこへ行くのか』

現代プラグマティズムを代表する思想家であるロバート・ブランダムが、邦訳タイトルが示している通り、プラグマティズムの過去から未来を描き出した、重量級の書物だ。ブランダム自身は序章において次のように語っている。 ドイツ観念論において際立っている…

宇野重規『民主主義とは何か』

本書のタイトルどおり、「民主主義とは何か」という基本的な問いに向き合った一冊。民主主義の歴史を振り返るだけではなく、ルソー、トクヴィル、ミル、ウェーバー、シュミット、シュンペーター、ダール、アーレント、ロールズといった政治思想家についても…

『表現者 クライテリオン11 特集:「大阪都構想」で日本は没落する』

特集のタイトルにある、「大阪都構想」によって「日本は没落する」という論理が気になって、『表現者 クライテリオン11 特集:「大阪都構想」で日本は没落する』を読んでみた。以下、大阪都構想と日本没落とが関係ありそうな発言をメモ。 柴山桂太:大阪都構…

ボヤン・マンチェフ『世界の他化-ラディカルな美学のために』

著者であるボヤン・マンチェフは本書について、「ジョルジュ・バタイユについての本ではなく、バタイユを出発点とする本である」(9)と述べる。また、訳者である横田祐美子さんも「バタイユについてのテクストではなく、バタイユから出発して、バタイユと…

カンタン・メイヤスー「思弁的唯物論のラフスケッチ」(『亡霊のジレンマ』所収)

メイヤスーの語る唯物論についてメモ。 私にとって、唯物論はカギとなる次のような二つの言明を持っています。1.<存在>は、(主観性の広い意味で理解される)思考とは分離され、また思考から独立している。2.<思考>は<存在>を思考することができる…

マルクス・ガブリエル×中島隆博『全体主義の克服』

「新実在論」「新実存主義」を掲げるマルクス・ガブリエルと中国哲学を専門とする中島隆博。どのように対話が成立するのかと思っていたが、対話は共鳴しあい、読者を惹き付ける。中島氏がガブリエルに対して、そして哲学に対して誠実に向き合っているためで…

吉田徹『アフター・リベラル-怒りと憎悪の政治』

「共同体・権力・争点の三位一体からなる政治のコンテンツがグローバルな環境と個人的な文脈によって各国でどう崩壊し、それとともに、それぞれがどのような変化を見せているのかを特定する」(29)ことを目的として本書は、帯にもあるように「不安なくらい…